2011年9月掲載

「生きた犬を実験に使っている!?」―文科省委員の発言は事実に反していた―
JAVA、ケンブリッジ大学に質問状を提出

JAVAは、英国のケンブリッジ大学に対し、獣医学の教育課程の実習・実験における生きた動物使用について3度(2010年5月、8月、12月)にわたり、質問を行った。
ケンブリッジ大学からは、2000年情報公開法(The Freedom of information Act 2000)に基づき回答があった。入手した主な情報を列挙する。

ケンブリッジ大学からの主な回答
■ 獣医学生の教育に生きた動物を使う目的は、臨床訓練と局所(表面)解剖のみである。
■ 決められた二つの動物病院で行い、そこで取り扱う臨床例を学ぶ。
■ 臨床訓練に用いる動物の種類と数(新規に取り入れる年間平均数)は:猫800頭、 ラマ(アメリカラクダ)100頭、牛500頭、犬3000頭、馬700頭、羊300頭。
■ 局所(表面)解剖に用いる動物の種類と年間使用数(1回のデモンスレーションにつき1動物を使用)は:馬10頭、犬4頭、牛120頭の群れから5%を選別
■ 使われる生きた動物たちは、飼い主のいる動物(患畜)であり、実習用の動物(業者からの購入、学内での繁殖等した動物)ではない。
■ 終了後は、動物は死亡することなく、飼い主に戻される。
■ 獣医学生の教育用に犬を繁殖させ、その犬を外科実習に使用することはしていない。

事の始まりは文科省の委員発言
そもそも、JAVAがケンブリッジ大学に対して、このような質問を行った理由は、日本の文部科学省の「獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」の第3回の議事要旨に記録された、下記の委員発言がきっかけであった。

ほとんどの国では、獣医師資格を持っている者の指導の下で、学生は手術を行うことができるようになっている。そのため、附属家畜病院とクライアントとの交渉により、学生が手術を実施する場合には料金が安くなることなどを説明する。
また、生きた動物を使って外科実習を行うことについては、アメリカではプラスチックのモデルを使うケースが増えてきたが、例えばケンブリッジ大学では生きている犬を使って行っている。動物愛護の関心が高いイギリスでは、シェルターから持ってくる動物は一切実習に使用できないが、自分の大学で実習用に育てた犬は使えることになっているため、繁殖させた動物を外科実習に使っている。

この他にも、発言者名が非公開とされているため、同委員の発言なのか否かは不明であるが、先の発言と関連する、「動物愛護団体が反対するので実験動物が確保できないとあきらめるのではなく、学用患畜を確保するために工夫をすることが重要」「動物愛護の嵐が吹き荒れている国でも、動物を使用できないわけではなく、実際問題としてケンブリッジ大学などでは使用している」との発言も見受けられた。つまりは、この発言をした委員は、「ケンブリッジ大学をみならって、学生の教育、実習のための実験動物の利用とその確保が重要である」と主張したかったものと推察できる。

これらケンブリッジ大学に関する委員発言について、疑問を持ったJAVAは、昨年10月に、文部科学省高等教育局専門教育課に問い合わせたところ、「この会議は獣医学の6年の学部教育を念頭においており、発言で『外科実習』ともあり、教育課程を想定して発言いただいていると思う。ただ、ケンブリッジ大学の実習課程で犬を使っているか否かの事実関係は、我われは委員の発言を記録しただけで海外調査を行っていないので、この詳細、事実関係は申し上げられない」との説明を受けた。

委員発言は事実に反していた
そこで、今度は直接、ケンブリッジ大学に対し確認を行い、ケンブリッジ大学からは、冒頭のとおり、「獣医学生の教育用に犬を繁殖させ、その犬を外科実習に使用することはしていない」と回答を得た。
「獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」は、日本の獣医学教育をどのように改善していくべきか検討している会議であり、欧米の獣医学の教育方法やシステムを例に挙げ、参考にしているケースも多い。ところが、その参考としている情報に事実と異なることが明らかになったわけである。

文科省、JAVAの指摘を認める
この会議は、今後の日本の獣医学教育の方針を左右する重要な役割を担っている専門家組織である。議事要旨は文部科学省のホームページでも公開されていることもあり、ケンブリッジ大学に関する事実に反する発言は多大な影響を及ぼす危険性が高い。
国の中枢機関である文部科学省が、たとえ一委員の発言とはいえ、事実に反することを公表するとはあまりに軽率であると言わざるを得ない。JAVAは同省に対し、発言の修正等、適切な対処を求めた。後日、文部科学省より、JAVAの指摘を認め、議事録やホームページの問題の記載を修正もしくは削除し、委員全員に修正した旨とその理由等を周知したとの回答があった。

(JAVA NEWS NO.86より)