JAVA:NPO法人 動物実験の廃止を求める会(Japan Anti-Vivisection Association)

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市民公開講座「動物実験の1R<代替>をめざして」

日本動物実験代替法学会第30回大会
市民公開講座「動物実験の1R<代替>をめざして」を企画・開催しました

2017年11月23~25日、『レギュラトリーサイエンスと3Rs』というテーマを掲げ、日本動物実験代替法学会第30回大会が開かれました。同学会としては最大規模の711名という参加者を数えました。
毎年、代替法学会の大会開催時に市民向けの公開講座が開かれていますが、今回はその講座の企画立案から当日の座長まで、動物保護団体PEACEの東さちこさんとともにJAVAの亀倉が務めさせていただきました。25日には市民や学会の研究者などの来場者を前に『動物実験の1R〈代替〉をめざして』というテーマでディスカッションを行いました。

第30回大会

大会テーマである「レギュラトリーサイエンス」とは、医薬品、食品、医療機器、化粧品など、私たちの身の回りのものについて、科学的根拠に基づいてその有効性や安全性を的確に判断できる試験法を研究開発・評価していくことだとされています。化粧品や食品の動物実験の廃止を企業に訴えてきている私たちにとっても関心の高いテーマでした。傍聴したプログラムから抜粋してレポートします。

●基調講演
日本のレギュラトリーサイエンスをけん引する国立医薬品食品衛生研究所の川西徹所長から、動物実験反対運動やそのベースとなっている哲学、それらの影響を受けて動物実験を取り巻く環境がどう変わってきたのか、自身が米国の研究所に勤めていたときのエピソードを踏まえたビビッドな紹介がありました。今後は、個別の動物実験に対する代替法開発ではなく、AOP(毒性発現経路)*1を踏まえてin vitro*2やin silico*3を組み合わせて対応していき、すぐにでもできる実験動物数の削減には随時取り組んでいくといった方向性も示されました。
試験法を組み合わせながら対応するのか、それとも一つの試験法を洗練させていくべきなのか、研究者の間でも意見の分かれるところだと思いますが、さらに活発な議論が行われ、最善策へとつながることを望みます。

*1毒性の原因となる分子レベル反応から、細胞レベル、臓器レベル、生体レベル、有害性発現に至るまでの各段階の因果関係を整理したもの
*2 in vitro 「試験管内で」という意味で、試験管内などの人工的に構成された条件下で行う試験のこと。これに対して動物実験は「in vivo」(生体内で)と呼ばれる。
*3 in silico 「コンピュータ(シリコンチップ)内で」という意味で、コンピュータシミュレーションなど計算上で結果を予測する試験のこと。

●サテライトセッション
動物実験の廃止を促進するため、動物を使用しない、まさに1Rを条件とした代替法研究に対する世界最大規模の賞金を提供するラッシュプライズ。英化粧品ブランド、ラッシュの提供によるサテライトセッションでは、2015年のラッシュプライズの若手研究者部門アジア賞を受賞した、当時大阪市立大学大学院、現在京大大学院および大阪国際がんセンター所属の辰巳久美子さんが講演。ヒトの肝細胞と組織を使って化学物質の安全性評価測定方法の研究功績が認められての受賞でしたが、日本では臓器移植法が障害となってヒト肝細胞の入手が困難なため、欧米から移植不適合となった正常ヒト肝細胞を入手して研究を続けているとのこと。こういった環境が研究の足かせになっており、現在さまざまな病院と連携し理解と協力を得ながら問題解決を図っているとの報告がありました。
動物実験に代わる方法がいち早く確立するためにも、研究開発が行われている環境について、私たち市民も広い視野をもって理解を進めていかなければいけないと改めて感じました。

●シンポジウム3
実験動物の福祉、AAALAC(国際実験動物管理公認協会)の認証制度の現状とその問題点をテーマにしたこのセッションでは、北里大学獣医学部の実験動物学研究室教授が登壇しました。
同教授は、2007年当時日本の大学として北海道大学が初めてAAALAC認証をとった際、同大学に在籍していました。2013年に異動した先の北里大学獣医学部では2008年に動物実験規則が作られていましたが、2014年、ある講座で農家から持ち込まれた病気のウシを無麻酔で放血して殺すという違反が内部告発によって明らかになり、その後、大学はアニマルウェルフェア相談窓口を設置し、動物福祉違反に対する相談や内部告発を受け付けているという報告がありました。
この事件はJAVAも取り組みました 。同じ学内に相談窓口が設置されても自浄作用が働くのか疑問が残ります。なお、北里大学獣医学部はAAALAC認証は受けていません。また、AAALAC認証を受けていたとしてもこのような事件を未然に防ぐことはできません。

●ワークショップ
「化粧品・化学・食品・製薬メーカーにおける代替法活用の最前線」では、6社からの発表のうち味の素と日清食品という2社が食品メーカーでした。たとえばカップラーメン一つをとってみても、お湯を入れて数分待ち、食べるまでの間にその容器が安全な状態を維持できるかどうかを確認しなければならない、そのためにも動物実験が行われている、ということでした。
ポスト化粧品といえるほど、食品業界でも動物実験廃止が続いているのに(キッコーマンヤクルトの例を参照)、動物実験はまだまだやめられないという主張には違和感を覚えました。より便利なもの、より安価なものと引き換えに、動物を犠牲にすることに、多くの市民がNOを突き付けるようになった事実をきちんと受け止めるべきです。

市民公開講座

■教育講演
市民公開講座の冒頭は、環境省の則久雅司動物愛護管理室長による『動物愛護管理法と動物福祉のジレンマ』と題する教育講演でした。676年「殺生禁断の詔勅」677年「放生の詔勅」以降明治まで日本では表向き獣肉食がタブーであったこと、長年の交配でさまざまな犬種を生み出してきた英国とは逆に自然のままがよしとされる日本の犬にはその原型であるオオカミの遺伝子が多く残されていることなど、日本と西洋の動物観の比較論を展開。そのうえで動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律。以下、動愛法)改正に際して日本の「愛護」と西洋の「福祉」という観念の違いをどのようにして法改正に落とし込んでいくのかという問題提起がなされました。
人間側には長年刷り込まれてきた動物観の違いが厳然とありますが、動物には国境はありません。すでに国際社会にはロールモデルも存在します。東京オリンピックを前に法改正が後退しないよう、しっかりと訴えていかねばならないと改めて思いました。

■パネルディスカッション「動物実験の1R〈代替〉をめざして」
動物の犠牲を減らし、なくすことをめざそうというシンプルな考え方が、なかなか支持を得られず広がっていかない日本の研究業界。どうしたらこの現状を変えていけるのか?代替法の3つのRのうちの1つ、Replacement(動物を使わない方法への置き換え)をめざそうということをテーマに掲げ、動物実験に関心のある市民や動物福祉の動向を注視する研究者らを前に、行政、メディア、動物保護団体、研究者といったさまざまな立場のパネリストに迎えて話をうかがい、率直なディスカッションを行いました。

◇パネリスト
太田京子さん 児童文学作家/日本児童文学者協会会員
森映子さん 時事通信社 文化特信部
大原拓さん 厚生労働省 医薬・生活衛生局医薬品審査管理課
福原和邦さん 経済産業省 製造産業局化学物質管理課
酒井康行さん 東京大学大学院工学系研究科/日本動物実験代替法学会
則久雅司さん 環境省 自然環境局総務課動物愛護管理室(※ディスカッションのみ)
東さちこさん PEACE 命の搾取ではなく尊厳を
◇コーディネーター
亀倉弘美 NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)

「実験動物への“かわいそう”の先を見つめて」(太田京子さん)
メインのパネリストとしてお迎えしたのは、児童文学作家の太田さん。2015年、某国立大学附属動物実験施設で実験動物たちの看護的ケアにあたる技術職員「テル」の姿を追ったノンフィクション「ありがとう実験動物たち」という小学校高学年向けの本を出版。この取材と出版にあたっての思いといま抱いている思いをお話しいただきました。その内容は、参加した会員のレポートをお読みください。

 

メディアから(森映子さん)
動物実験だけでなく、犬猫殺処分や畜産動物の福祉など、さまざまな動物問題を精力的に取材されてきた立場から、厚生労働省が出している動物実験代替法ガイダンスについて取材を通じて見えてきた問題を提起していただきました。当初代替法ガイダンスは、お知らせ程度の「事務連絡」ばかりで周知を意味する「通知」はほぼありませんでした。2014年ごろからようやく「通知」が出るようになってきました。ちょうど、動物実験を自主的に廃止する企業が増えてきたころと合致します。

 

厚生労働省から(大原拓さん)
関係省庁として、厚生労働省には化粧品・医薬部外品の規制における動物実験とその代替法の現状について報告いただきました。現在、新規有効成分や新規添加物を配合する薬用化粧品などの医薬部外品は、動物実験のデータが求められる状況にあるが、新規添加物が使われることはあまりなくなっています。平成28年度(2016年度)に承認された部外品1924品目中、動物実験ありで承認されたものは10品目でした。代替法については、平成17年(2005年)に動愛法改正で3Rsが法文に盛り込まれてから、薬事行政にも代替法利用促進が求められるようになったため、JaCVAM(日本動物実験代替法評価センター)において代替法ガイダンスを整理し、承認申請における代替法の利用を推進しています。

 

経済産業省から(福原和邦さん)
経済産業省にはAI(人工知能)を用いた新規化学物質の毒性予測方法を開発しようというプロジェクトについて紹介していただきました。化学物質の毒性は従来動物実験によって行うと規定されてきましたが、過去に行われてきた動物実験の膨大なデータ(ビッグデータ)をもとに、人工知能に化学物質と毒性発現の関係を推測させようという試みです。5年間のプロジェクトののち、実用化まで20年を見込んでいます。今まで行ってきた動物実験をゼロにするだけでなく、新規化学物質の開発期間を3年から1年への短縮する、企業の壁を越えた業界全体のプラットフォームを目指し、日本の産業の競争力を高めます。

 

動物物保護団体から(東さちこさん)
欧州では「動物実験の完全代替が最終目的」という合意があるなど諸外国では規制面でも意識面でも動物実験の縮減が進む一方、日本では動物実験業界の反発で法規制は進まず、どこに動物実験施設があるのかすらもわからないような状況であることを紹介いただきました。これを許しているのは動物実験を盲目的に信用している市民の意識であり、たとえば医薬品なら、動物実験で成功してヒトで治験に入っても、その化合物のうち医薬品になるのはわずか8%で、9割以上は問題が出るか期待したような効果が出ません。動物実験は、人体実験の代替法に過ぎず、完璧な方法ではないことを市民もよく理解する必要があります。

 

研究者から(酒井康行さん)
人体の器官を再現するチップ、Organ on-a-chip(オーガンオンチップ)など、最前線の代替法研究についてお話しいただきました。これまで基本となってきたヒトの培養細胞を使ったモデルでは本来の生体内の応答を再現はできません。そこで生体と同様異種の細胞を階層的かつ三次元的に積み上げるなど、より生体に近づける努力が行われてきています。機械的な刺激が必要な臓器のモデルOrgan on-a-chipに加え、複数の臓器のリアルタイムな相互作用や応答を観測するために、Organ on-a-chipを繋げたBody/Organs on-a-chipシステムに期待が寄せられています。このように生体により近いモデルの開発は急速に進んではいますが、人体の応答を完全に予測するにはまだ時間がかかりそうです。

 


■パネルディスカッション「なぜ1Rは広がらないのか」

―(コーディネーター)まず、代替法の認知度が低い。その前に動物実験自体の認知度がそもそも低い。日本では動物実験の実態は表に出てこない。

東:EUではEU指令で3年に1回統計を取らなければならない。アメリカも動物福祉法のもと、毎年、苦痛度別に何に使ったかという統計が取られる。日本は国による統計はない。どういう分野で行われているかも、わからない。

森:古くは1820年代からイギリスやフランスで、反対運動が起こった。近年は動物実験反対団体が、実験施設内の様子を写真や動画で暴露している。暴露活動は批判もあるが、残酷だったり合理性がない実験を中止させてきた。日本の市民は、動物実験そのものに関心がない、かわいそうすぎて見たくないなど。システムとしては、届出制ではない、自主管理のため関係者以外入れない、査察もない、実態を可視化するのが非常に困難。メディアも社会問題としての動物実験を取り上げない。メディアの責任もある。

―動愛法には2005年の改正で3つのRがすべて条文に盛り込まれたが。

東:当初からあった「苦痛の軽減」に加え、「代替」と「数の削減」が配慮事項として取り込まれたが、これ以降業界の反発が強く何も変わっていない。医学系の研究者による学会や団体がこぞって反対し、動物実験推進の強いロビー活動が展開されている。

―国際社会の中で日本のアカデミアのガラパゴス化が心配されないか。

酒井:学会の存在意義にもかかわる点。しっかりと(法律を)変えていきたいと思っている。

―動愛法の条文に3Rsが入ってから厚労省ではJaCVAMの動きが活発化し、代替法ガイダンスが出されるようになったという話だが、「代替」「数の削減」が配慮から義務に変わるとどうなるのか。

則久:法律にはっきりと書かれればより強い推進力にはなると思うが、動愛法の目的は「動物愛護する気風の招来」なので、それは動愛法の枠を超えている感を受ける。

―太田さんの本のモデルとなったテルさんが会場にいらしている。実験でつらく痛い思いをしている動物たちをケアするというのは「苦痛の軽減」にあたるが、この取り組みはどこの研究施設でも普通に行われているか。

テル:情報がないので正確には答えられないが、だんだん進んできているとは思う。実験動物に対する獣医の存在を規定するAAALAC認証を受ける日本の施設が増えてきているから。動愛法について、日本では動物は「命あるもの」という定義だが、実験動物の苦痛軽減は、動物を「痛みを感じる能力のあるもの」という前提にすれば、広がりやすいのではないか。また「苦痛軽減」は義務といいながら実践されているかは曖昧。欧米では獣医がその義務を果たすが、日本ではまだ具体的ではない。

―ここで1Rが広がらない2つの問題を提起したい。「動物実験はなくせないという固定観念」「3Rsが目的化しているのではないか」の2点。

森:メディアの世界では、一般的に医療記事は「動物実験ありき」。病気の解明、治療の発見などの発表において、動物実験の結果は当然のようにさらりと書かれるだけ。「動物実験は必要だ」と豪語していた知り合いの医療記者は、太田さんの著書を読んでから「動物実験にも課題があるようだ」と吐露していた。意識改革が必要。

東:日本の報道は(動物実験の結果が)すぐに人間の役に立つかのような結論が多いのに対し、欧米の科学記事は「今はまだマウスの段階なので人間に適用できるかどうか不明」とある。説明責任の違いという印象。

―アカデミアでの固定観念は?

東:大学では動物実験の前に、倫理委員会で実験計画書を審査する仕組みになってはいるが、なんで動物実験なのか、代替法があるかないか検討したのかという項目が不明でも承認印が押されている。基本的に身内審査。国立大は情報公開がある(からある程度わかる)が私立大は審査の仕方自体がおかしいところもある(のに情報は公開されない)。

―自主管理や自主規制はどこまで有効なのか懐疑的だ。行政ではどうか。

大原:科学的に信用に値するかどうかであって、ヒトの安全性を確認するのに、ヒトと種差のある動物なのか、生体外の非動物なのか、科学的な議論になる。今後も検証が必要。

―日本でも大手企業が動物実験廃止を打ち出すようになったが、以前と今とで業界の雰囲気はどう変わってきたか、長年化粧品企業で研究されいま大学で教鞭をとるAさんにお聞きしたい。

Aさん:結局は安全性の問題で。薬害が出れば安全性はクローズアップされるが、普段はその安全性がどうやって確認されたのか、話も出ない。そこで動物実験が行われていること、どうやって代替していくかということを、きちんと示していくことが必要。学生たちを前に「代替法」という言葉を広めたい。若い人たちに知らせていくことの重要性を感じている。

―化粧品企業が動物実験していたときは「安全性は動物実験で確認しています」とは言わなかった、動物実験はイメージが悪いから。でもそれを代替法に変えました、これで安全性を担保してますと言えるようになったのは大きいのでは。

Aさん:その通りだと思う。さらに、過去は動物実験だった、という歴史もきちんと知られるようになるとよい。

―あるツイートをご紹介したい。「犬猫の愛護家や活動家が動物実験に反対するなら、犬や猫を飼うべきではない、保健所の犬猫は即殺処分、動物病院にも行くな、治療薬、ワクチン、ノミダニ駆虫薬や一切使うな、実験動物を犠牲にしないとは、医療や科学の恩恵を拒否すること、ということだ」。こういうオールオアナッシングの言説が、代替法を応援しようという機運を阻んではいないか。

太田:それでは先に進まない。この年まで生きてきてどれだけの動物の犠牲があったかと思いを馳せる。私たちは人間中心主義のなかで生きていることを切実に考えさせられる。恩に報いるというか罪滅ぼしというか、自分たちに何ができるかを考えていくべきだ。

東:私たちは、過去を断罪しようと思って活動しているわけではない。そこからどうやって脱却していくか。「奴隷解放」を謳うとき「奴隷制の上に築き上げた経済繁栄も後退させよう」という話ではないのと同じ。

則久:人間が生きていくうえで多くの動物を犠牲にしていかざるを得ないという現実を直視する必要があるとは思う。理念が先行して原理主義的にきつい意見を言うのではなく、やはり寛容さは必要。動愛法の目的に「人と動物が共生する社会の実現」とあるが、戦後の日本は戦争で人を死なせた反省から「生きる」ところばかりやってきた。しかし「死ぬ」ことも問わねばならない。他の動物を殺して生きているという現実から目をそらしてきたことが、極端な意見を醸成するのにつながっているのかもしれない。

―代替法学会に十数年参加しているが、そのなかで「動物実験廃止を掲げるならこの学会に来るな」と言われ続けてきた。学会にもいろいろなスタンスの人がいると思うが。

酒井:科学の世界では、研究論文を書いて成果を上げ世界に発表していくときの、ある種スタンダードなやり方はある。たとえばここはヒトに近い動物実験をやらないとよい論文が書けないという場合、あまり疑問を持たずにそのスタンダードに合わせるというのは否めない。ただ、国際的な取り決めや法規制によってこの環境は変わっていくのだろう。動物実験については、今後相当長期にわたって必要だろうと思っている。代替法開発は一生懸命やるけれど、まだわからないことだらけ。

―化審法は動物実験ありきという話だったが、動物愛護云々を抜きにして動物実験ではない手法へのシフトは、市場的にはどうか。

福原:全身毒性については代替法がまだないということで、企業には動物実験をやってもらっている状況だが、動物実験はコストも時間もかかるわけなので、代替法さえあれば動物実験はやりたくないというニーズはあるだろう。そういう状況を踏まえて経産省は今回のプロジェクトを立ち上げた。もちろん非常に難しいテーマであり時間もかかる。それでも将来的に動物実験をやらなくても済むような成果を出していきたい。

―「3Rsが目的化しているのではないか」という点について、3つのRのうち、動物を使わないReplacement(代替)がもっとも人道的であって、動物を使うなら数を減らそう、痛みを軽減しよう、そういう順序が自然。しかし、動物実験推進団体もこぞって「3Rsを守って適正な動物実験を進めよう」と言っている。EUでも「究極的な目標はすべての動物実験の代替」というように「1R」を掲げている。日本でもこのくらいはっきりゴール設定してもよいのでは。

大原:厚労省のミッションは安全性の確保。ヒトと動物どちらか選べというオールオアナッシングではなくて、折衷案としての代替法。今後その開発に尽力するということに異論はない。しかし義務化という話になると、現状まだ信頼性の担保できていない代替法について適用限界がある。もっと議論が必要。

福原:経産省も同様で、現状での義務化は難しい。ただ、代替法を開発して最終的に動物実験をなくしていく方向に動くというのは可能かと思う。代替法学会の研究成果を活用して研究開発を進めていく、それなら協力できると思う。

酒井:代替法学会は、現状では3Rsという点で結集して成立しているので、(1Rを最終目標に掲げるという点については)長期にわたって検討したい。個人的には、自分はin vitroの研究者なので、in vitroと数値シミュレーションですべての人体の挙動、ヒトの一生をコンピュータ上でサイエンスするという究極の目標を持っている。ただ、その難しさもある。さしあたり動物実験は必要で、最新のin vitroを組み合わせうまく使いながら徐々に動物実験を減らしていく、ということが、今後数十年にわたっては現実的だろうと。

則久:環境行政においてミティゲーションという考え方がある。自然開発時の考え方。まず「影響回避」。それがどうしても避けられない場合に「影響の最小化」。最小化もできない場合は「修復」。次に「影響の軽減」。ダムをつくって魚が登れなくなるなら溝をつくるなど一部再生的なこと。さらに「代償」。開発のために湿原を壊すので別の場所に違う湿原をつくろうという。この5つのどれをとっても良いわけではなく「影響回避」が最優先。次に「最小化」。順を追ってきて最後は金銭解決となる。3Rs、3つあるならできるだけ使わないで済む方法を探すのが、環境行政の立場からすれば至言。

太田:市民目線でいえば、自分や家族、その健康が大事で、医薬品や日用品、食品など安全が一番。安全になるまでの過程はほとんど知らない。だからもしそれが代替法で確かめられるならなにも文句はない。こうして動物愛護精神が高まっている時代なら、なおのこと歓迎である。さらなる発展を期待したい。

森:代替法の取材をすればするほど、全身毒性が難しいというのを感じる。だからこそ、それを研究されている先生方をバックアップするためにも、あとの2つのRが努力義務になれば、予算的なサポートも出るのではないか。世論も変わってくるだろう。代替法発展のためにも、せめて努力義務にすることは不可避だ。

東:動物保護団体は義務化を求めている。厳しい現状もあろうが、代替できるものは代替すべき。オランダは2025年までに安全性試験としての動物実験をなくすとしている。こういった諸国からの後れを感じる。日本でも法律的に(代替法開発を)推進する根拠があったほうが良い。今後も市民目線で活動を続けていきたい。

―最後にフロアからご意見を。

Bさん:前回の法改正で、実験動物の取扱について動愛法から切り離して別法化するという話が出た。結局それは取りやめになったが、将来的にどうなのか、現時点で別法化することのメリットデメリットはなにか。

東:市民団体としては動愛法のなかでやってほしいと訴えてきた。前回の改正では、別法案の主意が「動物実験の適正化」で、動物福祉から切り離す動きに見えた。他国でも動物実験規制があるところはあるがそれは動物福祉という目的が明確になっている国。基本(主意)の部分でずれる可能性のある日本では非常に危険。

則久:(日本の)命あるものという道徳的観念も、それを大切にしようという愛護法も大事だとは思うが、諸外国の仕組みは動物福祉法。日本でも動物福祉を煮詰めていく議論が必要。犬猫に関しては殺処分への大きな批判を考えればまさに「気風」を作り上げてきたのだろう。次は「愛護」ではなく動物自身のことを考えていく「福祉」というアプローチ、法律だけでなく文化的な部分でも広げていく必要がある。

―議論しきれなかった、語りつくせなかった、もっと聞きたかったという人もいるだろう。代替法学会にはこのテーマで次回またフォローアップの機会をつくってほしい。
(了)

初の試みとあり試行錯誤の企画でしたが、様々なステークホルダーとの議論を通じて1Rが広がらない問題点の可視化につながったのではないかと思います。登壇者の皆様、参加者の皆さま、学会の関係者の皆さま、長時間ありがとうございました。引き続きご関心をお寄せください。


 

<参加した会員のレポート>
ありがとうでも仕方ないでもない未来へ~太田さんの発表を聞いて
「ありがとう実験動物たち」という本の存在と作家さんの名前は知っていました。そして私は反発心を持っていました。動物実験をなくすために活動しているのに、なぜ「ありがとう」と言って動物実験を正当化するような人を敢えて呼ぶの?モヤモヤした気持ちで当日私は席に座っていました。
太田さんは子どもの頃実験動物の存在に気づき「かわいそうだからと目を背けてはいけない。もっと人々に実験動物の存在を知らせなければならない」とずっと考えていたとのこと。ある時、ある大学で実験動物の看護的ケアを行う技術者の女性に出会い、さっそく取材を申し入れ、実験動物たちに寄り添う立場から本を書こうと決めたそうです。
本の出版後に寄せられた、研究所で働いていた人からの「心を込めて動物を扱ってきたつもりだが、一般の人だけではなく長い間実験に携わってきている研究者にもこの問題をぜひ問うてほしい」という意見について「“慣れ”によって動物を粗暴に扱っている現実もあるのでは。“慣れ”が呼ぶ人間の不遜というものがあるのでは。」と太田さんは考察されていました。このように命や痛みに対する不遜な意識が蔓延する実験室で物質としてしか扱われない動物たちを献身的にケアする職員の存在を知ることができたのは良かったのですが、このような取り組みがなされている施設はまだわずかだと聞いて愕然としました。実験動物のケアがもっと当たり前になってほしい。私だけでなく、実験動物たちのことを聞くたびにかわいそうだと思っている方々も同じ想いだと思います。
また「この女性の揺るぎない信念とその取組みに感動した」という声もあれば「ありがとうと言えば動物になにをしてもいいのか」という私と同じような意見もあったそうです。太田さんは「ありがとう」という言葉を選んだ経緯を話されましたが、やっぱり私は納得できませんでした。
でももし「ごめんなさい実験動物たち」だったとしたら、この本は出版されなかったかもしれません。本人だけでなく大学の担当教授その他多くの方々の理解と協力を得て取材が可能になり、本が出版できたのです。太田さんがどういう思いで「ありがとう」という言葉を選ぼうとも、実験動物たちの存在を知ってもらうために行動し、実際に形にし、多くの人に読んでもらっていることが大事なことなのではないか、そう思い直しました。
太田さんの発表タイトル「“かわいそう”の先を見つめて」。その先にあるのは、やっぱり「感謝」や「恩恵」ではないと私は思っています。「かわいそうだけど仕方のない犠牲」なんて存在してはならないからです。でも、残念ながら今このシステムを簡単に撤廃できるわけではありません。「先」というのが「時間」だとすれば、「“かわいそうだけど仕方のない犠牲”のない未来」だと考えると、何か納得できる気がしました。その未来が一日も早く訪れるよう、私がやれることをもっと頑張ってやっていこうと思っています。

 

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