「実験動物と畜産動物の保護・ウェルフェアのためにすべきことを考える院内集会」 開催報告
2025年4月15日(火)、動物愛護法改正のための活動を協働して行っているJAVA、PEACE、認定NPO法人アニマルライツセンターの3団体共催で、国会議員の皆様に実験動物と畜産動物に関する問題を知っていただき、私たちの求める改正にご理解・ご賛同いただくため、衆議院第一議員会館で集会を開催しました。
会場は満席、18名もの議員が出席
200名の会場は満席となり、高い関心をお持ちの皆様の熱気に包まれた会場に、超党派18名の国会議員の皆様と、代理出席の秘書の方19名がご出席くださいました。

ご出席くださった国会議員 <敬称略、五十音順> ( )内は所属政党・会派
<衆議院議員>
石井智恵(国民)、奥野総一郎(立憲)、鎌田さゆり(立憲)、北野裕子(参政)、小宮山泰子(立憲)、篠原孝(立憲)、田中和徳(自民)、丹野みどり(国民)、沼崎満子(公明)、福田かおる(自民)、松木けんこう(立憲)、松原仁(無所属)、眞野哲(立憲)、みやかわ伸(立憲)、森山浩行(立憲)
<参議院議員>
川田龍平(立憲)、串田誠一(維新)、福島みずほ(社民)
秘書が代理出席してくださった国会議員 <敬称略、五十音順> ( )内は所属政党・会派
<衆議院議員>
あべ俊子(自民)、阿部知子(立憲)、泉ケンタ(立憲)、岩屋毅(自民)、おおつき紅葉(立憲)、亀井亜紀子(立憲)、下条みつ(立憲)、杉村慎治(立憲)、高井崇志(れいわ)、田村貴昭(共産)、萩生田光一(自民)、古川元久(国民)、円より子(国民)、水沼秀幸(立憲)、道下大樹(立憲)、矢﨑堅太郎(立憲)、山崎誠(立憲)、鰐淵洋子(公明)
<参議院議員>
水野素子(立憲)
■開会挨拶:実験動物と畜産動物に特化した集会を開催した理由
和崎聖子(NPO法人動物実験の廃止を求める会 事務局長)

これまでの動物愛護法の改正では、犬猫に関する改正が中心で実験動物と畜産動物については置き去りにされてきたと、実験動物と畜産動物に特化した集会とした理由を述べました。
そして、どちらも非常に多くの犠牲があるにもかかわらず、日本は保護やウェルフェアのための法整備や施策は世界に遅れをとってしまっています。そのようなことから、まず現状や問題点を皆様と共有し、また、進んだ取り組みをしている企業の情報を知ることで、実験動物と畜産動物のために私たちがすべきことは何か考えていきたいと、この集会の開催趣旨を説明しました。
■特別ゲストスピーチ
河口眞理子氏(立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授)

環境・社会・ガバナンスを考慮して行うESG投資やESG投資の原型であるSRI(社会的責任投資)、CSR(企業の社会的責任)、エシカル消費の3つを同時に進めていくことで、世の中がサステナブルなものになるのではないかという調査研究を20年以上続けてきて、企業のアドバイザーなども歴任してきた河口氏。
アニマルウェルフェアは、ESG投資、エシカル消費において、以前から非常に重要なテーマであったとして、「90年代には、米国では、SRI型の投資信託の30~49%のファンドのESG基準に動物実験があった」「2016年の京都府による府民1,000人に対するエシカル消費のアンケートでアニマルウェルフェアに賛同する・やや賛同するという人を合わせると56%いる」といったデータが紹介されました。その他、複数の国際評価機関によるアニマルウェルフェアを含むサステナビリティ評価など様々なデータをお示しいただきながら、アニマルウェルフェアに関して、金融の中でどういった潮流があったかについてご講演くださいました。
実験動物についてのトピック講演
■実験動物をめぐる現状
東さちこ氏(PEACE 命搾取ではなく尊厳を 代表)

動物愛護法では、動物実験関係の業は動物取扱業の対象から除かれていて、3Rの原則が理念として入っているだけです。しかも「代替」と「数の削減」は配慮事項に過ぎず、「苦痛の軽減」のみが努力義務となっていること、さらに、環境省は飼養保管だけをみて、各省庁が動物実験の基本指針を作るという縦割りになってしまっています。その上、文科・厚労・農水の3省しか指針を作っていないといった現状説明がありました。そして、動物実験施設の登録や査察、違反した場合の罰則がある諸外国に対して、いずれも存在しない日本は、国際NGOからかなり低い評価を受けていると指摘をした上で、私たち3団体が動物愛護法改正で求めている4点*の解説がされました。
世界では実験に動物を使うのをやめようという流れもあり、特に化粧品の動物実験は禁止する国が増えてきています。海外だけでなく、国内でも大手企業は次々と動物実験を廃止しているといった現状があることから、3団体は、化粧品・医薬部外品(薬用化粧品)の動物実験について、その実施と動物実験が行われた製品の販売の両方の法的禁止を求めてロビー活動を行っていることが報告されました。
* ①動物実験の3Rの理念を定めた第41条において、動物実験の代替と実験動物数の削減を義務とする ②国(関係省庁)に、代替法があるものについて、その利用の検討と推進を義務付ける ③動物実験代替法の開発・評価・普及を国の責務とする ④実験動物関連施設(販売業者を含む)を動物取扱業に加える
■動物実験規制の歴史的意義
上田昌文氏(NPO法人市民科学研究室 代表理事)

日本の動物実験には統一的な法規制がなく、国が定めたガイドラインを各研究機関が自主運用することになっている。そのために、3Rが遵守されない状況があっても十分なチェックが入らない等の問題が生じている、との指摘がなされました。
また、動物実験で得られた毒性や薬効などのデータをヒトに適用してうまくいったのかどうか、3Rに配慮した実験や代替法で行った実験と比較してよりうまくいったと言えるのか、を検証しなければならないはずだが、そのような評価はあまり目にしたことがないとのことでした。
オランダの動物を用いない試験研究への移行に関する報告書やドイツの動物実験登録制度、米国のFDA近代化法、英国のハービー法案などの例をあげて、いくつかの国は動物実験全廃に確実に歩みを進めていて、日本と差が開いてくるという懸念が示されました。
国内外の、とりわけ欧米では加速している代替法の研究や推進の状況も紹介され、科学の歴史を勉強されてきた上田氏は、動物実験をやめていくことには大きな歴史的意義があると考えていて、21世紀中におそらく全廃されるのではないかと述べられました。
日本の課題として、「なぜ登録や届出を完全に義務化して、不透明な3Rからの逸脱をなくそうとしないのか」「なぜ、基本指針の自主運用だけで欧米並みの法規制ができないのか」「なぜ大学や研究機関が連携して、自主的に全廃や削減の宣言を出せないのか」「なぜ、国として21世紀中に全廃の目標が掲げられないのか」と提起されました。
■化粧品業界における動物実験廃止に向けた取り組み
柴田亜希氏(ラッシュジャパン合同会社 バイイング スーパーバイザー)

英国発祥の化粧品ブランドであるラッシュは、1995年の創立当初から大切にしている指針の中に「動物実験反対」があり、製品開発やサプライチェーン全ての過程において、動物実験を行わない、一切関わらない方針を貫いているとのこと。
原材料調達において重要視している視点のうち動物保護に関しては、動物由来の成分を使用しないこと、またグループ関連会社までも含めて動物実験に一切関わっていない企業やサプライヤーから原材料を調達することを徹底しているとの説明がなされました。
完成品に対する安全性試験は、ボランティアの人の肌でのテストと培養細胞や人工皮膚を使った動物実験代替法で実施しており、人の皮膚や細胞を使用することで製品が実際にどのように反応するかを正確に予想できるため、信頼性のある結果が得られる旨も示されました。
そのほか、動物実験に頼らない研究開発支援や動物実験の廃止に向けた活動を推進することを目的に2012年に設立された基金「ラッシュプライズ」(2012年にJAVAも受賞)や、ラッシュの 店舗等で実施した動物実験の実態を伝えるキャンペーンや署名活動などについても紹介がありました。
畜産動物についてのトピック講演
■畜産動物の現状
岡田千尋氏(認定NPO法人アニマルライツセンター 代表理事)

世界はケージフリーに向かっているのに日本だけ動いておらず、日本の平飼いの割合は1.13%、スイスの100%、米国の40%、インド22%、韓国7.3%などと大きく差が開き始めているとのこと。そして、ケージの中についても、日本では採卵鶏も肉用鶏も、世界にないくらいぎゅうぎゅう詰めで、健康を保つことできず、農水省の指針を守れていないとの説明がなされました。このような飼育をすると足の裏に皮膚炎ができ、そこから細菌が入って、その肉を介して人間の体に入ってくるといいます。
鶏の屠畜においては、意識を保ったまま首を切るというやり方を大手企業でもやっているのは、日本だけとのこと。動物愛護法の殺処分の規定で、できる限り苦痛を減らすように、意識喪失させるようにとありますが、全く守られていない状況なのです。
日本総合研究所によると、国内のアニマルウェルフェアの付加価値総額は5,735億円と試算されており、ビジネス的な観点、人間の健康の観点、労働改善や人材確保の観点、そして何よりも動物のことを考えると、アニマルウェルフェアは進めなくてはならないと主張しました。
そのために、農水省、厚労省、環境省の3省が連携を強化して、自分たちがやっていくと意思表示してくれること、強制力を伴った法規制、アニマルウェルフェアに前向きになった生産者を応援する補助金などの制度が必要と訴えました。
■企業内で育てるアニマルウェルフェアの意識
加藤大氏(JPモルガン・チェース CSRユニット)
※企業側の事情により、JPモルガン・チェース 加藤大様のご講演の内容はお伝えできないことをご了承ください。
■消費者とともに進む企業の取り組み
前田陽一氏(生活協同組合連合会 コープ自然派事業連合 商品部統括マネージャー)

コープ自然派は、2010年に畜産に関するアニマルウェルフェアを進めていこうと各生産者の方に呼びかけを行って、それ以降、放牧酪農の牛乳の取り扱いを開始したとのこと。また、その放牧場を訪ねるツアーを実施したり、専門家・有識者を招いての学習を重ねたり、生産者と交流をしたりして理解を深めてきたという経緯が説明されました。
そして、2020年にアニマルウェルフェア対応の豚肉の取り扱いを開始、2021年から平飼い卵へシフトも重点取り組み課題にするようにしたそうです。同時にワーキングチームを作って各生産者の方に飼養環境のアンケートを実施して現状把握に努めるとともに、専門家に入ってもらいながらアニマルウェルフェアを推進するための準備を進め、現在も続けているとのこと。
2021年のカタログでは、アニマルウェルフェアをテーマに掲げて、豚の繁殖農場や肥育農場の詳細について掲載したことが紹介され、その後も年に数回はアニマルウェルフェアを特集記事にして、繰り返し、組合員や組合員になろうとしている人たちに伝えていることや、年々、アニマルウェルフェアに対応した畜産物の総取り扱い重量は増えていることなどが報告されました。
質疑応答
関係省庁(環境省、厚生労働省、文部科学省、農林水産省)
主催3団体(JAVA和崎聖子・PEACE東さちこ氏・ARC岡田千尋氏)
ファシリテーター 堀越啓仁氏(元衆議院議員・ARCアドバイザー)


この「質疑応答」では、事前に、3団体から各省庁に出していた質問に対して、集会の場で回答をしてもらいました。そして、3団体の3名から、回答に対する意見を述べました。 質問および回答と3団体の見解については、当日、時間が足りず、取り上げることができなかったものも含め、「2025.4.15院内集会 関係省庁との質疑応答の内容と3団体の見解」をご覧ください。
■特別ゲストの河口眞理子氏による総括コメント
化粧品や畜産物といった私たちの暮らしに密着している分野の議論は、専門家、専門事業者と当局の間だけで色々なされていて、私たちに情報がシャットダウンされています。要するに、生産者や行政の間だけで話が決まっていて、一般消費者のところにこの情報というのは、全くオープンになっていないと感じられたとのこと。NGOが出している実態は、あまりに残酷であったりするので一般の方は見るのを躊躇ってしまいます。そこが知られていないことをどうにかした方がいいのではないかと指摘されました。
現状において、残念ながら動物福祉は仕方なくやるというベースライン・常識に囚われてしまっているように感じられます。それを変えるためには、その経済的なメリットが出るような法規制などの仕組みを作っていくことが大事です。生活者のそういう仕組みへの応援みたいなものや動物福祉をやっている企業への応援の仕組みを作っていくといったことで、昔は仕方がなかったことが今やできて当たり前みたいに動かしていけるのではないのかとのご提言をいただきました。
そして、人間だけが生き物の勝ち組と思ってはいけない、どう共生していくかという視点で政策当局者も経済関係の方もNPOの方も同じ方向いて動いていければいいと述べられました。
この集会の内容はYoutubeでご覧いただけます(市民メディアUPLANによる配信)
(※企業側の事情により、JPモルガン・チェース 加藤大様のご講演「企業内で育てるアニマルウェルフェアの意識」は含まれておりません)
ご参加いただい皆様、本当にありがとうございました!
これからも実験動物と畜産動物に関する法改正や問題の解決に向けて、全力で取り組んでまいりますので、引き続きご協力をよろしくお願いします。