硝酸ストリキニーネによる犬の毒殺の廃止を!
狂犬病予防法施行規則の改正を厚労副大臣に申し入れ

2021年7月13日、JAVAは、三原じゅん子厚生労働副大臣に厚生労働省の副大臣室で面会。狂犬病発生時の犬の薬殺に用いる薬品に指定されている毒物「硝酸ストリキニーネ」を、できるだけ苦痛の少ない麻酔薬へ変更する「狂犬病予防法施行規則」の改正を要望しました。
本当でしたら、薬殺そのものをなくしたいですが、狂犬病の発生という緊急時の措置であり、そして、発症すれば治療は不可能な感染症であることから、今、私たちができる最大限のことは、できるだけ苦痛の少ない方法に改善することなのです。

法律で「硝酸ストリキニーネ」と決められている

狂犬病予防法第18条の2において、「狂犬病のまん延防止及び撲滅のため緊急の必要がある場合」かつ「抑留を行うについて著しく困難な事情があると認めるとき」に犬を薬殺できると規定されています。そして、「狂犬病予防法施行規則」の第17条「毒えさに用いる薬品の種類」には、「狂犬病予防法施行令(昭和二十八年政令第二百三十六号)第七条第二項に規定する薬品は、硝酸ストリキニーネとする」として、犬の薬殺に用いる薬品は「硝酸ストリキニーネ」と指定されています。
日本では1956年を最後に犬における狂犬病の発生はありませんが、今後、狂犬病が国内で発生するような事態になる恐れは皆無ではありません。万が一、狂犬病が発生し、薬殺をしないとならないような事態となった場合、「硝酸ストリキニーネ」と指定されている限り、使用される可能性は否めません。

硝酸ストリキニーネの使用は非常に残酷

しかし、この硝酸ストリキニーネは「毒物及び劇物取締法」で「毒物」に指定されている薬品です。硝酸ストリキニーネによる毒殺は、全身が弓なりにのけぞるほどの激しい痙攣、呼吸困難などを生じさせ、犬に非常に大きな苦痛を与える残酷な方法です。いくら狂犬病が発生し、殺処分を避けることができない緊急時であったとしても、このような残酷な方法で殺すべきではありません。できるだけ苦痛のない方法をとるのは当然です。
そのため、JAVAは「狂犬病予防法施行規則」について、次の改正を三原厚生労働副大臣に要望しました。

  1. 犬の薬殺に用いる薬品を「硝酸ストリキニーネ」とする記述を削除すること。
  2. 犬の薬殺を行う場合は、適切な麻酔薬を用いて、できるだけ苦痛を与えない方法によるとすること

今がこの要望をする またとない機会

「硝酸ストリキニーネ」の指定については、JAVAは以前より問題視していました。しかし、緊急対応が必要とは言えない改正のために厚労省に動いてもらうことは難しく、他の改正の際に一緒に改正を実現させる機会をうかがっていました。2019年6月1日に施行された改正動物愛護法では、犬猫の販売業者に対してマイクロチップの装着を義務付けることが新たに規定され、マイクロチップを犬の鑑札とみなすとなりました。この規定の施行を来年に控え、厚労省では狂犬病予防法の政省令の改正の作業が行われるはずであり、硝酸ストリキニーネの記述の削除についても検討してもらう絶好の機会と考えたのです。

三原副大臣「前向きに検討する」

JAVAは、硝酸ストリキニーネによる殺処分がいかに残酷であるかということに加え、動物愛護法の規定からしても、自治体の実情からしても、そして国際的にも硝酸ストリキニーネを用いることには問題があることを副大臣に伝えました(下記参照)。その上で、60年以上に及ぶ硝酸ストリキニーネの指定を見直していただきたいと強く要望しました。
自民党どうぶつ愛護議員連盟の事務局長でもある三原副大臣からは、「動物愛護の気持ちは皆さんと共有している」「要望事項については、専門家の方々の意見を聞く必要はあるが、前向きに検討したい」とおっしゃっていただきました。

JAVAが薬殺の方法について要望することに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、硝酸ストリキニーネの残酷さ、苦痛を知ったなら、この硝酸ストリキニーネによる毒殺は即刻廃止にすべきと思われることとでしょう。現在は実施されていませんが、今後もし狂犬病が発生した場合、今の施行規則のままでは、硝酸ストリキニーネで犬が殺されることになりかねないのです。二度とそのようなことが起こらないようにするためにも、今回JAVAが厚労副大臣に要望したことは、重要なことなのです。

硝酸ストリキニーネを用いることの問題点

動物愛護法や関連指針に反している

■動物愛護法
動物愛護法の第40条「動物を殺す場合の方法」では、「動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない」と定められています。

■動物の殺処分方法に関する指針 
動物愛護法に基づく「動物の殺処分方法に関する指針」(平成7年7月4日 総理府告示第 40 号)では「殺処分動物の殺処分方法は、化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること」とあります。

■動物の処分方法に関する指針の解説
「『動物の処分方法に関する指針』の解説」(平成8年2月1日発行 内閣総理大臣官房管理室監修)の「第3 処分動物の処分方法」の「2.愛がん動物(一般)」には、「かつては、抱水クロラール、硫酸マグネシウム、硝酸ストリキニーネ、塩化ツボクラリン、ニコチン等も用いられていたが、それぞれの薬理作用が死に至るまでの過程で、もがき、筋肉痙攣、硬直、唾液分泌、嘔吐、排便、排尿、発声など随伴症状がみられることが多いので使用すべきではない」とあります。

以上のことから、硝酸ストリキニーネによる殺処分は、動物愛護法に反すると言えます。

自治体では硝酸ストリキニーネを使わない努力をしている

JAVAでは、自治体における狂犬病予防法に基づく業務における犬の薬殺の実態を把握するため、2019年2月に都道府県・保健所政令市127自治体に対してアンケート調査を実施いたしました(国や自治体以外のアンケートには回答しないという青森市以外はすべて回答)。

■硝酸ストリキニーネでの薬殺は行われていない
その結果、平成28(2016)年4月1日~平成30(2018)年12月31日までに薬殺を実施した自治体は2自治体のみで、いずれも硝酸ストリキニーネは用いずに、睡眠・鎮痛剤や麻酔薬を用いて実施したことが判明いたしました。その他の自治体は、硝酸ストリキニーネを使用したことがない、もしくは相当以前より硝酸ストリキニーネを使用していない、最後に使用したのがいつであったか不明という回答でした。

■硝酸ストリキニーネを保有している自治体は36%
また、現在、硝酸ストリキニーネ保有している自治体は46自治体に留まることもわかりました。

■苦痛の少ない薬品を条例で規定する自治体もある
さらに13自治体が下記のように条例や要綱において、硝酸ストリキニーネ以外の薬品を薬殺の際に使用できるように規定し、できる限り苦痛のない薬殺を行う努力していることがわかりました。

(クリックで拡大表示できます)

■施行規則の改正は自治体の意向に沿うことにもなる
硝酸ストリキニーネを用いて犬を薬殺することについての考えを聞いたところ、次のような結果でした。

(クリックで拡大表示できます)

このように「硝酸ストリキニーネでの薬殺は適切な方法ではない」「他の薬品を用いるべき/他の薬品が望ましい」と考えている自治体が多くあります。同時に「法律で規定されている以上、それに従うしかない」と考えている自治体も多く、狂犬病予防法施行規則の改正がいかに重要であるかがわかります。

硝酸ストリキニーネによる殺処分は国際基準に反している

■OIE(国際獣疫事務局)
OIE(国際獣疫事務局)の陸生動物衛生規約のVOLUME I 第7部 第7.7章「STRAY DOG POPULATION CONTROL(野良犬の個体数管理)」には、動物福祉の観点から許容されない安楽死方法として、「ストリキニーネ」と記されています。日本はOIE加盟しているわけであり、この規約を遵守すべきと考えます。

■米国獣医師会の安楽死ガイドライン
米国のみならず、国際的にも大変重視されている米国獣医師会(American Veterinary Medical Association)が発行している「AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals: 2020 Edition(米国獣医師会 動物の安楽死処置に関する指針2020年版)」において、「容認できない薬剤」として、「ストリキニーネはいかなる状況下でも安楽死剤としての使用は認められない」とあります。

■フランスの法的禁止
1999年4月15日付の農業・漁業省の省令によって、ネズミへの使用をはじめ、ストリキニーネの農業利用が全面的に禁止されています。


日本では、未だに硝酸ストリキニーネによる毒殺が公的に認められているどころか、この薬品を使うよう法律で規定していることは、明らかに国際的な流れに遅れを取っていると言えます。実際にはどの自治体も硝酸ストリキニーネを用いていないのですから、一刻も早くこの状況を改善すべきです。

TOP