全国初「8週齢努力義務」/札幌市条例

全国初「8週齢努力義務」を盛り込んだ札幌市の動物愛護条例が成立
しかし、この条例には多くの問題も

2016年3月29日、札幌市議会で「札幌市動物の愛護及び管理に関する条例」(以下、札幌市動物愛護条例)が成立しました。10月1日に施行されます。
この札幌市の条例は、すべての犬猫の飼い主に「生後8週間は親子を共に飼養してから譲渡するよう努めること」という、「8週齢規制」につながる条項を盛り込んだものになっています。これはとても画期的な条項ですが、一方で、多くの問題ある条項も盛り込まれてしまいました。

「8週齢規制」とは

8週齢(生後56~62日)に満たない子犬・子猫の販売等を禁じる規定で、米国、英国、ドイツ、フランスなどではすでに法律で規定されています(国によっては犬のみ)。
この規定制定の理由には、8週齢未満の子犬・子猫を親兄弟姉妹と引き離すことは、母親から受け継ぐ免疫や、親兄弟姉妹とのコミュニケーションによって身に付く社会化などにおいて問題が起こるということがあります。
このように、海外では8週齢規制がすでに設けられているのですが、日本の「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)では、実現していません。
実は、動物愛護法にも次のように「8週(56日)齢規制」が明記されています。

第22条の五 犬猫等販売業者(販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者に限る。)は、その繁殖を行つた犬又は猫であつて出生後56日を経過しないものについて、販売のため又は販売の用に供するために引渡し又は展示をしてはならない。

しかし、附則によって緩和措置が設けられていて、「出生後56日」は「出生後45日」に読み替える(2016年9月からは「出生後49日」と読み替える)となってしまっているのです。しかも、緩和措置の期限は決められていないために、「8週齢規制」の実施がいつになるのか見通しが立っていないのです。

「8週齢規制」については、先の動物愛護法改正の時にも、JAVAは強く求めてきました。札幌市の条例に盛り込まれた「生後8週間は親子を共に飼養してから譲渡するよう努めること」は「努力義務」ではありますが、動物愛護法における「8週齢規制」実現にもつながる、ひいては犬猫以外の動物の販売規制にもつなげられる大きな一歩と考えています。

「生後8週間は親子を共に」の条項を応援する緊急集会
JAVAは条例の問題点も指摘

8週齢集会
少しでも幼い方がお客は可愛いと感じて売れるため、ペット業界は「8週齢規制」に反対し続けています。この札幌市動物愛護条例案にも業界からの反発が考えられることから、これに屈することなく札幌市が8週齢の条項を実現するよう、条例案が審議される札幌市議会の定例会開会直後の2月19日、「札幌市動愛条例の『幼い犬猫守る条項』を応援する緊急院内集会」が衆議院第二議員会館で開催されました(主催:幼い犬猫を守る札幌市条例を応援する有志)。また、開催に合わせて、オンライン署名プラットフォームChange.orgにて、札幌市長、札幌市議会、環境省動物愛護管理室にあてた署名集めも開始されました。
集会では、獣医師や法律家などの専門家、国会議員、動物愛護団体が登壇して、それぞれの立場や専門的観点から「8週齢規制」の必要性・重要性を訴えるという充実した内容で、定員140名の会場は満席でした。
JAVAも登壇し、「動物愛護法では実現していない状況の中、札幌市の条例案には、『犬猫は生後8週間は親子を共に』という条項が盛り込まれていることはとても評価できます。」と述べるとともに、「一方で、忘れてはいけないのが、条例案には、猫の駆除を促しかねない『猫の所有明示の義務付け』や、地域猫活動を阻害するおそれのある『飼い主のいない猫に繰り返し餌を与える者の遵守事項』が盛り込まれていたり、愛護条例にはふさわしくない、『野犬の捕獲・掃討』が、既存の『畜犬取締り及び野犬掃とう条例』から引き継がれていたりと、問題点も多々あり、修正の必要があるということです。」と、8週齢の条項が注目されるあまり、見落とされてしまっている条例案の問題点についても指摘しました。

「札幌市動物愛護条例」 案の問題点

JAVAが札幌市愛護条例案で問題があると考える点は次のとおりです。

【問題点-1】第8条の(1)「犬を飼養施設の敷地外に連れ出す場合は、当該犬の排せつを事前に済ませてから連れ出すよう努める」

犬が散歩中に行う排せつ行為には、単なる排せつだけでなく、臭い付けや他の犬とのコミュニケーションの目的もあり、本能的な行為です。臭い付けは不妊・去勢手術によって減らすことは可能で、この努力を飼い主が行うことは必要ですが、人為的に散歩前に排せつさせることは不可能に近く、その上、犬にストレスをかけることにもなり、習性にも反します。
この規定が盛り込まれたなら、「散歩前に排せつしないから、散歩ができない。今日の散歩は止めよう」と、飼い主が考えることにもなりかねません。それは、犬にとって、適切な散歩を阻害することになり、虐待にも繋がり得る規定と言えます。
また、条例に盛り込まれることで、「あなたの飼い犬は電柱におしっこをしたから、条例違反。市に通報します」というような空気が市内に広がれば、近隣住民同士の啀み合いやトラブルが発生し、住民同士がぎくしゃくした、暮らしにくいまちとなってしまいます。
よって、この規定は盛り込むべきではありません。

【問題点-2】第8条の(1)「当該犬のふん等を処理するための用具を携行するなどして、これらを速やかに処理すること」及び、第32条の(1)「第8条の(1)への違反者に対する罰則」

まちの美化や住民の生活環境を守ることは大切ですが、同条例によって、「犬のふん尿を処理しなかったら、罰金」となれば、つまりは、札幌市が多くの市民を容疑者・犯罪者に仕立て上げることになり、【問題点-1】で述べたことと同じように監視社会になる可能性が高くなるため、「処理するよう努めること」と努力規定に留めるべきです。

【問題点-3】第9条の(1)「柵又はおりその他の囲いの中で飼養する場合には、これらは鉄、金網その他の堅固な材料で造られたものとし、その出入口の戸に錠を設けること」及び第9条の(2)「丈夫な綱、鎖等で固定した物につないで飼養する場合は、飼い主以外の者が容易に近づけないようにすること」

飼い主が、この特定犬に関する規定を重視するあまり、例えば、おりに閉じ込めっぱなしにしてしまうなど、犬の福祉に反した飼養をしてしまう恐れがあるため、あえて「特定犬の心身にストレスを与えないよう、福祉に十分配慮すること」の一文を加えておく必要があると考えます。

【問題点-4】第12条第2項「猫の所有者は、その飼養する猫をやむを得ず屋外に出す場合には、当該猫がみだりに繁殖することを防止するため、避妊手術、去勢手術その他の措置を講ずる」

繁殖制限の徹底が殺処分の減少に不可欠なことは明らかです。また、不妊・去勢手術の実施は発情によるストレスをなくす効果もあり、犬猫の福祉向上にもなります。
よって、屋外に出す猫に限定せず、屋内飼養の猫、そして犬にも適用すべきです。このように修正することは動物愛護法に合致し、何ら問題ありません。

【問題点-5】第12条第2項「猫の所有者は、その飼養する猫をやむを得ず屋外に出す場合には、首輪、名札等により飼い主がいることを明らかにするための措置を講じなければならない」

マイクロチップは体に埋め込むことへの抵抗感や装着費用の高さなどから、普及しているとは言い難いのが現状です。今も所有明示の方法として、首輪の装着がもっとも一般的な方法となっていると考えます。
しかし、猫は狭いところに入り込んだりするため、首輪が何かに引っかかり首吊り状態になって死亡するという事故が起こる可能性は大いにあり、なかには首輪等の異物をつけることでパニックになったり、ストレスから皮膚病等を発する個体もいます。実際このような理由から、あえて首輪を付けない飼い主もいます(首輪をつける場合は、一定の力が加われば留め金が外れる、ゴム製でひっかかっても伸びて猫が抜け出せるといった安全設計のものにしなければ危険です)。
さらに、猫の所有明示を市民に徹底させようとすることは、飼い猫と野良猫を区別し、本来、平等である命の差別化を助長することにもなります。猫は、飼い猫であれ野良猫であれ、動物愛護法において愛護動物に規定されており、虐待すれば罰せられますが、なかには、「野良猫ならば虐待したり殺しても構わない」と思っている人も未だにいて、野良猫の虐待事件が後を絶ちません。このように、日本の動物愛護意識の低い現状で、飼い猫と野良猫が区別されることになれば、野良猫を狙った動物虐待犯罪が増加するのは明らかです。動物虐待は人を殺害するといった凶悪犯罪と密接な関わりがあると指摘されており、そうなれば、地域社会の治安にも著しく悪影響を与えることになります。犯罪抑止のためにも、この規定は不適切です。
動物愛護法においても、所有明示は努力規定となっているにもかかわらず、札幌市が条例で義務付けることは問題であり、「努めること」と努力規定に留めるべきです。

【問題点-6】第13条「飼い主のいない猫に繰り返し餌を与える者の遵守事項」

地域猫活動を全く理解していない規定です。地域猫活動とは、地域の野良猫たちに不妊・去勢手術や餌やりを行って世話を続けながら、野良猫を減らし、ゴミ荒らしなどを防いでいくという動物愛護にかなった方法で地域の環境問題を解決する活動です。
環境省をはじめ、全国の自治体も推進し、全国的な広がりをみせているように、「野良猫の増加」「猫のふん尿」などの問題は、動物愛護を基盤にした、地道な息の長い地域ぐるみの取り組みによってしか、根本的な解決の道はありません。行政と連携した本格的な活動を行う市民グループも増えていますが、このような取り組みも元をたどれば、一人、二人の市民による取り組みが発展したものです。
地域猫活動は、本来、市民からの猫の苦情に頭を悩ます行政がその対策として、行政主導で取り組むべきものです。しかし、実際は、ボランティアで行われている活動に大きく依存していることからも、できるだけボランティアを増やすためには、その取り組みを細かく規定しすぎてハードルをあげたり、厳しく縛りつけるべきではありません。飼い主のいない猫に繰り返し餌を与える行為は、まさに、地域猫活動の第一歩であり、行政はそれを奨励し、地域猫活動へ発展するよう努めるべきなのです。
ボランティアの負担を少しでも軽くするのが、行政の努めであるにもかかわらず、飼い主と同等の義務を負わすこの条項は、市民が餌を与える行為、つまり、地域猫活動がやりにくくなるだけの規定です。野良猫の増加やふん尿問題を解決したいとするなら、この規定は削除し、行政主導で野良猫に餌を与え、不妊・去勢手術をするボランティアが増えるよう、全力をあげて取り組むべきなのです。それに目を背け、猫好きな市民の善意に頼るばかりか、猫の餌やりに足かせをはめ、地域猫活動にブレーキをかけるような条項は、野良猫問題を解決させようという意思が札幌市に全くないとしか考えられません。この第13条の規定を削除するべきです。

【問題点-7】第14条「多頭飼養の届出」

多頭飼養が不適切飼養や周辺環境への問題につながりやすい、またそういった問題が発生していることは承知しています。しかし、具体的な頭数で届出規制をかけることは明確な根拠がありません。パブリックコメント募集の段階では、犬猫合計10 頭以上の場合に届け出るとなっていましたが、10頭は問題で、9 頭なら問題ないのか、といったことになってしまいます。また、1 頭でも不適切飼養や周辺環境への問題に繋がっているケースも多々発生しています。
さらに、むやみに規制をかけることは、常に多くの犬猫を保護する活動をしている市民ボランティアに負担をかけ、活動に支障をきたす恐れもあることから、この届出義務規定は削除すべきです。

【問題点-8】第19条「野犬等の捕獲等」

「野犬等の捕獲や掃討」の規定は、もともと「札幌市畜犬取締り及び野犬掃とう条例」に盛り込まれていましたが、同条例は、社会生活の安全確保と公衆衛生の向上が目的の条例です。「愛護」と名の付く「札幌市動物の愛護及び管理に関する条例」にこの「野犬等の捕獲や掃討」の規定はそぐわないものです。「野犬等の捕獲や掃討」の業務は狂犬病予防法によって定められており、あえて新条例には盛り込む必要もなく、盛り込むべきではありません。
ただ、狂犬病予防法においては硝酸ストリキニーネによる犬の毒殺という残酷行為がいまだに認められているのは言語道断と言わざるを得ません。この殺処分方法は犬を苦しめる虐殺行為であり、大きな問題であると言えます。対処として、条例にて「やむを得ず動物を殺処分する場合には、その殺処分方法は、化学的又は物理的方法により、できる限り動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によること。」というように動物愛護法に基づく「動物の殺処分方法に関する指針」にのっとった規定を盛り込むことにより、これに反する毒殺が実質行われないようにする方法が考えられるでしょう。
いずれにしても、「野犬等の捕獲や掃討」の規定は動物愛護条例にはふさわしくなく、盛り込むべきではありません。

【問題点-9】第21条第3項 「市長は、(略)当該動物を適正に飼養することができると認めるものに譲渡することその他の方法により処分することができる」

動物愛護法第35条第4項では、「都道府県知事等は、引取りを行った犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、(略)その飼養を希望する者を募集し、当該希望する者に譲り渡すよう努めるものとする。」と規定されています。
ご存知のとおり、過去には自治体が収容した犬猫を動物実験用に払い下げるという処分方法が行われていました。国民の動物愛護意識の向上により、全国の自治体はこれを廃止し、動物愛護法に基づく「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置」からも動物実験用の払い下げに関する一文は削除されました。
しかし、札幌市動物愛護条例案の「その他の方法により処分することができる」という一文は、その他の方法が具体的に示されていないことから、動物実験用に払い下げるという、過去の悪習の復活すら疑わざるを得ないものです。
収容動物の処分については、動物愛護法に規定されていることから、あえて条例において規定する必要はなく、「愛護」と名のつく条例にふさわしく、「適正に飼養することができると認めるものへの譲渡」に限定し、さらに「譲渡することができる」という緩い規定ではなく、動物愛護法に合せて、「譲渡するよう努めなければならない」という努力義務とするべきです。

【問題点-10】第27条「犬又は猫の引取り申請をしようとする者の手数料の納付」

動物愛護法の第35条に基づいて、札幌市では飼い主から飼養できなくなった犬猫の引取りを行っているわけですが、同条では引取りを求める相当の事由がない場合として省令に定める場合には引取りを拒否できると規定されています。つまり、行政は終生飼養をしない無責任な飼い主から引き取るか否かを判断する立場にあり、飼い主への飼養継続の説得や、「終生飼養できないなら、二度と動物を飼養すべきでない」といった教育をするなど主導権を握らないとなりません。しかし、手数料を払うことで、飼い主側は反省するどころか、「費用を払うのだから、つべこべ言わずにさっさと引き取れ」という態度・思考に至りかねません。
よって、引取手数料の徴収は札幌市の立場を不利にするだけで、引取り数の削減等には寄与しないと考えます。もし、手数料を徴収するのであれば、条例案に示されている2,100円という低額ではなく、飼い主側が引取り依頼をためらうぐらいの高い金額にした上で遺棄や虐待を防ぐために徹底した指導をしなければ、この規定を加える意味がないばかりか、全くの逆効果でしかありません。

イラスト犬と猫

「良い条項が入ったのだから、そこまで細かいこと言わなくても」と思われるかもしれませんが、動物愛護法も、多くの自治体の動物愛護条例も、人間の都合のために動物の管理を強める傾向が出てきています。本来、動物たちを守り、彼らが幸せに暮らせることを最優先にした法律や条例にするべきで、そのためには、動物愛護に反する条項は盛り込ませてはならないのです。そうしなければ、ますます動物たちの置かれる状況は過酷になってしまいます。
私たち動物のために活動する団体・市民は、「これくらいは仕方ない」と妥協するのではなく、「動物の愛護」と名のつく法律・条例としてふさわしい形を目指し、細かいことにも目を光らせ、良くないことは良くないと言い続けなければなりません。
JAVAでは、前回同様、次回の愛護法改正においても「8週齢規制」を強く求めていきます。それと同時に、全国の動物にとって良くない条例やシステムについて、今後も問題を指摘して、その改善にも取り組んでいきます。

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