情報公開はどこまで?大学のサルの実験1

情報開示請求でどこまで公開されるか
~京都大学のあるサルの実験の場合 その1~

「情報公開制度」は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」や「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」、いわゆる情報公開法や地方自治体の情報公開に関する条例にもとづいて、行政機関や独立行政法人等が保有する文書の開示を請求できる制度です。JAVAの活動においてこれまで何度も国立大学や自治体などに請求してきましたが、今回ご報告するのは、京都大学に対して行ったあるサルの実験に関する開示請求についてです。

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京大のサルの実験について開示請求

2016年7月、「医学部において、2016年1月1日~12月31日までに実施された又は実施予定である、霊長類(ヒトを除く。生体・死体を問わず)を用いたすべての実験の動物実験計画書」という条件で開示請求したところ、該当する実験が3件ありました。
そのうちの1件のニホンザルを使った実験について、計3度の開示請求と不服審査請求を行いました。

開示資料:動物実験計画書
動物実験計画書というのは、動物実験を行う前に、責任者が作成し、その機関に設置されている動物実験委員会に提出します。委員会はその計画書をもとに実験実施の可否を審査します。計画書の様式は機関によって若干異なります。

<開示された主な情報>

申請書提出日:2016年5月27日
研究課題名:巧緻な運動制御に関わる神経回路とその損傷後の機能回復機構の解明
研究目的:ここの内容を読むと、次のような目的の研究であることがわかる。

  • 正確に視覚対象を注視するための眼球の運動(サッケード運動)や細かい物体を持って操作するような手指の巧緻運動のシステムは特に霊長類で発達している。
  • 人間が脳や脊髄を損傷した後に障害が顕著に現れる機能である。
  • 巧緻運動の制御に関わる脳の領域での情報生成過程やその機能、障害後の機能回復機能について、ニホンザルを使って、行動や神経活動への影響を解析する実験を行う。

実験責任者:医学研究科神経生物学の伊佐正教授
実験実地期間:承認後~2017年3月31日
使用動物:ニホンザル 28頭
入手先:ナショナルバイオリソース、他(←ここは黒塗り)
研究計画と方法:ここの内容を読むと、次のような実験方法であることがわかる。

  • 吸入麻酔をしたサルの頭部に頭部固定用ボルト、チャンバー、電極、眼球運動用記録アイコイルなどを取り付ける手術をする。
  • 日を変えて、第一次視覚野の吸引除去や部分的脊椎損傷等の手術をする。
  • 急速眼球運動やレバー操作など様々な課題を行わせ、その神経活動や脳活動を記録する。
  • 脊椎損傷や脳の第一次視覚野除去、薬物注入などによる、課題を行う行動や神経活動への影響を調べる。
  • 摂食・摂水が困難な状態が数日続く、急激な体重減少などが見られたら実験を打ち切る。
  • 鎮痛剤などでは軽減できないような苦痛等が見られるときには安楽殺処置を行う。
  • 実験後、ペントバルビタールの静脈内大量投与で死に至らせ、脳と脊椎を採取する。

想定される苦痛のカテゴリー:D.脊椎動物を用い、回避できない重度のストレスまたは痛み(長時間持続するもの)を伴うと思われる実験(※Dは4段階のうち、苦痛が大きい方から2番目)

承認日:2016年6月13日

<非開示(黒塗り)の情報>
1 伊佐教授の連絡先(電話番号、メールアドレス)
⇒京大は、これを非開示とした理由を「公にすることにより当該研究者の研究活動の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」としています。具体的にどんな支障なのかも書かれていないばかりか、おそらく市民からの抗議の電話やメールを想定しているのでしょうが、それはあくまで推測にすぎません。なんでも「おそれがある」が通ってしまえば、すべて非開示になってしまいます。そもそも伊佐教授の個人の連絡先ではなく国立大学という公的機関の連絡先であり、開示すべきです。

2 伊佐教授以外の実験実施者や動物飼養者名
⇒京大は、これを非開示とした理由を「本学と雇用関係ない者の氏名は、慣行として公にしておらず、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第5条第1号に該当するため」としています。ちなみに、この法第5条第1号では、「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」は公開しなくてよいと定められています。学生ならともかく、研究者として京大のプロジェクトに関わっているなら、氏名を公開すべきと考えます。

3 実験に使うサルが飼養保管されている動物実験施設内の部屋名
4 実験を行う動物実験施設内の部屋名
⇒京大は、これを非開示とした理由を「厳重な警備、厳格な管理を必要とし、当該実験動物を飼養または実験する建物内部の情報を具体的に公表していない場合で、施設棟欄に記載された実験室の名称を開示することにより、当該実験室の場所や位置が特定されるおそれがある場合は、当該施設の安全管理上、これらの情報は犯罪の予防、鎮圧または捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあり、法第5条第4号ロに該当するため」としています。この法第5条4号ロでは、「犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」がある場合、情報を公開しなくても良いと定められています。
ここでも①と同じく、具体的にどんな犯罪や公共の安全と秩序の維持に対する支障なのかも書かれていません。おそらく市民からの抗議行動を想定しているのでしょうが、これもまたあくまで推測にすぎません。

5 サルの入手先
⇒後述の「黒塗りにされたサルの入手元」をご覧ください。

ナショナルバイオリソース(NBR)とは
2002年に文科省が着手した、動物、植物、微生物、細胞といったバイオリソース(生物遺伝資源)、いわゆる研究材料を整備、安定供給させるための一大プロジェクト。動物では、マウス、ラット、虫、魚類、鳥類、カエル、ニホンザルなど様々扱われている(2018年4月現在)。
そのなかの「ニホンザル」のプロジェクトは、過剰繁殖した動物園のサルを母群にして、産まれた子ザルを実験に使うというもの。国内の3つの動物園が、同プロジェトの代表機関である京都大学霊長類研究所とサルの提供で合意していたが、うち函館市営熱帯植物園と松本市アルプス公園は、JAVAをはじめ国内外からの抗議により中止を決定。残る札幌市立円山動物園に対しては、JAVAは署名活動、文科省と札幌市役所前でのアピールアクション、文科省、動物園、札幌市との面談、住民監査請求、裁判と闘い続けたが、最高裁がJAVAの上告を退けた。円山動物園は2005年3月に第一陣となる15頭のサルを京大霊長研に移送し、計45頭を提供した。
なお、伊佐正教授(当時、自然科学研究機構 生理学研究所に所属)は、かつて「ニホンザル」プロジェクトの課題管理者や副運営委員長を務めた人物である。

開示資料:納品書 ・請求書・譲渡証明書など
3回目の開示請求で入手した見積書と請求書から、サルを1頭、325,000円で購入したことがわかります。見積書と納品書は3セット(サル8頭分)が開示されましたが、いずれにも日付が入っていないという杜撰さです。残りの20頭のサルは同じく開示された譲渡証明書や繁殖証明書から、譲り受けたり、京大ですでに所有しているサルであったなどが考えられます。また発注書はなく、何をもって正式な発注としたのかも疑問です。

黒塗りにされたサルの入手元
JAVA、不服審査を請求

動物実験計画書のサルの入手先の欄において、ナショナルバイオリソースとは別の入手先が黒塗りになっていました。さらに、譲渡証明書 でも、譲渡元(矢印 )が黒塗りになっています。いくつもの非開示部分のうち、ここが最も問題と考えます。その理由は以下の<JAVAの主張>に記します(その他の黒塗りについては、JAVAが請求した実験とは別のサルについてなので黒塗りは妥当)。
JAVAは2017年8月18日、譲渡証明書で譲渡元が非開示であった点について、総務省 情報公開・個人情報保護審査会に諮問する不服審査請求を行いました。不服審査請求は不開示について不服がある場合に、行政不服審査法に基づき不服の申し立てをできる制度です。

<京大の主張>

  • 記載のある民間事業者はすべて、実験責任者である教授が、過去に在籍した研究機関で同様の開示請求があった際に意見を求め、自己の正当な権利利益を害されるおそれがある旨、明確な反対意見を寄せていた事業者であった。
  • 現に英国において、実験動物を取り扱う特定の企業が、過激な動物愛護団体等から圧力を受けて倒産の危機に瀕したことや、国内でも動物実験を行う機関が不法侵入、窃盗等の被害を受けた実例もあること等に鑑みれば、当該事業者の危惧は現実の可能性があり、現在もその社会状況に特段の変化があったわけではなく、法第5条第2号に該当すると判断、不開示とした。
  • 今回の審査請求を受け、当該民間事業者に改めて社名や代表者名等、事業者の特定が可能となる情報の開示の可否について意見を求めたところ、「情報が開示されることで、不当な圧力を受けて営業に甚大な被害を生じる可能性がある」旨の反対意見があり、現在においても当該事業者の意見に変更がないことを確認した。
  • 開示すれば、今後、法人名を開示されることを懸念して民間事業者が京大との取引を中止するおそれがあり、ひいては京大の研究に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、法第5条第4号柱書にも該当し、不開示は適当。

<JAVAの主張>

  • 京大から提出された理由説明書には、当該民間業者から「情報が開示されることで、不当な圧力を受けて営業に甚大な被害を生じる可能性がある」旨の意見があったためとある。
  • 今回の場合、不当な圧力や被害を与えるのは、開示請求をしているJAVAであると見なされる。JAVAは、設立以来、当然のことながら法を遵守して社会に貢献する活動を行っており、法人として、動物問題に関連し、国民のモラルの向上を目指す立場にいる。そのような当会の開示請求に対して、「不当な圧力」や「甚大な被害」という理由で非開示にするというのは、JAVAの社会的な立場と名誉を著しく汚すのも同然であり、看過できない。
  • しかも、「不当な圧力」や「甚大な被害」とはどういったものなのか、その具体的な説明もなされず、非開示にすることは到底納得できない。
  • 実験動物に係る業に限らず、どのような業者であっても、何らかの被害に遭う可能性は皆無ではない。当該民間業者が「不当な圧力」や「甚大な被害」を過去に実際に受けたのならまだしも、海外の企業や他機関が受けた被害を挙げて、「自分たちにも起こり得る可能性がある」と言い出したら際限がなく、この主張が通るなら、取引業者名の非開示はいくらでも認められることになる。
  • 取引先は個人ではなく、法人である。 社会的に責任のある立場として当該民間業者が適正に業務を行っているならば、国民に堂々と知らせるべきであり、非開示にするということは、当該民間業者との取引に対して、有らぬ憶測を呼ぶおそれがあるものである。特に本件の動物実験責任者である伊佐正教授と当該民間業者は、伊佐教授が他の研究機関に在籍していた時から取引を続けているとのことであり、なおさら癒着関係等の疑いを生じさせてしまう。
  • 国税によって実施されている研究に用いられる研究資源(今回の場合はニホンザル)は、国民の財産である。自分たちの財産について、国民は知る権利があるのは当然のことであり、どこから得ているのかを知ってはじめて、その入手ルートや方法が妥当かつ正当なものなのかを検証することができるのである。譲渡元や譲渡先が不開示では、不正な国有財産の出入りや癒着等があっても国民の監視の目が行き届かないことになる。つまりは、情報公開制度が意味をなさなくなってしまうも同然である。
  • よって、「譲渡証明書中に記載のある譲渡した民間業者名及び譲渡先民間業者名」の開示を求めるものである。

審査会の結論は「不開示は妥当」

2018年3月、今回、情報公開・個人情報保護審査会が出した結論は、「不開示は妥当」というものでした。「民間業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある旨の京大の説明に特段不自然、不合理な点はない。JAVAの主張は審査会の判断を左右するものではない」との理由ですが、JAVAが指摘する疑問点にきちんと応えているとは言えません。

なぜか時間がかかる・・・

このように開示請求しても、国民に知らされない情報が多いことがおわかりいただけたかと思います。そのうえ、とにかく開示されるまでの時間が非常にかかるのです。情報公開法で認められているとはいえ、毎回毎回、30日以内の開示決定期限を30日間延長してきて、4枚、6枚といった資料を見つけ、コピーして送られてくるまでに2か月、3か月かかりました。不服審査請求に至っては、7か月を要しました。
行政文書には保管期間が3年、5年のものも結構あります。このように請求手続きの手間取っているうちに、文書が処分されてしまことも大いにあり得るのです。

今回の3回の請求と不服審査の流れをご覧ください。

情報開示請求1回目 情報開示請求2回目 情報開示請求3回目 不服審査請求
2016年7月19日

JAVA⇒京大

動物実験計画書を請求

2016年12月5日

JAVA⇒京大

動物実験計画書以外の動物実験関係資料を請求

2017年4月3日

JAVA⇒京大

サルの入手に係る文書すべてを請求

2017年8月18日

JAVA⇒京大

請求書を京大に送付

8月19日

京大⇒JAVA

9/20まで決定期限延長の連絡

2017年1月6日

京大⇒JAVA

2/6まで決定期限延長の連絡

5月8日

京大⇒JAVA

6/5まで決定期限延長の連絡

12月7日

京大⇒JAVA

審査会に諮問したとの通知

9月16日

京大⇒JAVA

決定通知(6枚ある)

2月6日

京大⇒JAVA

決定通知(4枚ある)

6月5日

京大⇒JAVA

決定通知(24枚ある)

12月19日

審査会⇒JAVA

意見書提出を希望するなら2018年1月16日までに出すこと、との通知

9月23日

JAVA⇒京大

郵送での公開を希望する旨、返信

2月14日

JAVA⇒京大

郵送での公開を希望する旨、返信

6月27日

JAVA⇒京大

郵送での公開を希望する旨、返信

2018年1月10日

JAVA⇒審査会

意見書提出

9月30日

京大⇒JAVA

6枚を発送

3月13日

京大⇒JAVA

4枚を発送

7月27日

京大⇒JAVA

24枚を発送

3月14日

審査会⇒JAVA

不開示妥当の答申

かかった期間:約2か月半 かかった期間:約3か月半 かかった期間:約3か月半 かかった期間:約7か月

それでも請求してみる価値あり!

このように、疑問や納得できないことの多い情報公開制度ですが、それでも開示請求する意義、価値はあります。活動に必要不可欠な情報が把握できることもしばしばありますし、もし、欲しい情報が開示されなくても、請求された側(今回の場合は京大や伊佐教授)からしたら、市民から注視されれば、慎重になる部分もあるでしょう。
市民による監視は市民運動の基本でもあります。情報開示は誰もが請求できます。ぜひチャレンジしてみてください。

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