「OECD多国籍企業行動指針」にアニマルウェルフェアを盛り込むよう要望

経済協力開発機構(OECD)の「OECD多国籍企業行動指針」は、日本を含むOECD加盟国とこの行動指針への参加国の多国籍企業に対して、企業に期待される責任ある行動を自主的にとるよう勧告するものです。
この行動指針に法的な拘束力はありませんが、人権、雇用、環境、消費者利益、科学及び技術など、幅広い分野における企業の責任ある行動に関して原則と基準が定められています。

これまで5回改訂されてきて、2011年の直近の改訂から10年経った今年、まさに見直しの時期にきています。
この見直しの機会に、世界中の国々で活発に推進され法規制が進められてきているアニマルウェルフェアをこの行動指針に盛り込むべきであると考えます。

そこでJAVAは、認定NPO法人アニマルライツセンターと連名で、外務省に対し、下記の要望書、そして、畜産動物のアニマルウェルフェアと日本の化粧品の動物実験の現状を説明する資料を提出しました。

外務大臣 茂木敏充 殿
外務省経済局 政策課長 石垣友明 殿
外務省経済局 経済協力開発機構室長 廣瀬愛子 殿

拝啓 
時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

私どもはアニマルウェルフェアの向上に取り組む動物保護団体です。この度は、OECD多国籍企業指針について行われている見直しに関してご連絡いたしました。私どもは日本政府に対し、同指針の改訂において、アニマルウェルフェアを盛り込むことを支持するよう求めます。

1976年に起草されたOECD多国籍企業行動指針は2011年以降改訂されていません。その結果、持続可能性に関連するさまざまな分野で、過去10年間に起きた多くの変化から大きく遅れをとっています。特に、現在指針に全く記載のないアニマルウェルフェアに関してはギャップが大きく、責任ある企業行動としての国際規範と一致していません。
責任ある農業サプライチェーンのためのOECD‑FAOガイダンス」にはアニマルウェルフェア(動物福祉)がデュー・ディリジェンスの一つとして人権と並んで明記され、規定されています。これとの整合性を取り、OECD多国籍企業行動指針にもアニマルウェルフェアを明記する必要があります。しかし、この「責任ある農業サプライチェーンのためのOECD‑FAOガイダンス」には、食料生産に関連しない分野におけるアニマルウェルフェアへの直接的または間接的な影響は取り扱われていないため不十分です。さらに、このガイダンスはOIE(世界動物保健機関)の規約と「5つの自由」のみに言及しているため、多くの民間基準や世界の流れに遅れをとっています。

OECD多国籍企業行動指針にアニマルウェルフェアを盛り込むべき理由は2つあります。第一に、アニマルウェルフェアは、人獣共通感染症の蔓延、薬剤耐性、気候と生物多様性の危機など、地球が現在直面しているいくつかの課題と深く関連していることです。明らかな例は次のような工業式畜産です:

  • 高度に工業化された動物生産システムによる集約的畜産は、搾取される動物の福祉だけでなく、水、空気、土壌の高レベルの汚染、および動物の飼料の需要拡大による森林破壊につながり、環境にも壊滅的な影響を及ぼしました。畜産物のサプライチェーンは世界の温室効果ガス排出の14.5%を占め、量の問題と共に、動物の飼育方法も重要です。
  • 畜産の普及と飼料の生産に関連した土地利用の変化とそれに伴う生息地の喪失により、動物(野生および養殖)、人間、生態系の間の接触が、より緊密かつ、はるかに頻繁になりました。野生動物とその生息地への圧力は、人獣共通感染症の蔓延の主な原因となっています。さらに、数十億(養殖されている魚も考慮すると数兆)単位で飼育されている動物は、人間にとって壊滅的ではないとしても危険な可能性のある病気の保菌者および経路となっています。
  • 家畜生産における抗菌剤の乱用は、薬剤耐性(AMR)の急増の主な原因であり、WHO(世界保健機関)は、「今日の世界の健康、食糧安全保障、および開発に対する最大の脅威の1つ」と述べています。この現象は、小規模生産によるものではなく、抗菌剤が日常的、かつ多量に使用される集約農業システムの普及によるものです。
  • アニマルウェルフェアは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の多くのゴールを達成することにも強く関係しています。そしてより高いアニマルウェルフェアはいかなるSDGsも遅らせることはありません。それどころか、より高いアニマルウェルフェアとSDGsの達成との間の相互に有益な関係が確認されています。一般に、より高いアニマルウェルフェア条件を提供する可能性のある生産システムは、環境、気候、および生活への悪影響が少ない可能性も高くなるのです。

第二に、これが多くの企業の現在の慣行を反映しているためです。実際、意識の高まりと消費者の需要に直面して、世界中の企業は、家畜福祉のビジネスベンチマーク(BBFAW)の結果に見られるように、自主的なデュー・ディリジェンスの取り組みで、アニマルウェルフェアを取り入れ始めています。2019年には、上位150の食品企業の80%がこれに該当しました。これは、この傾向を新たな問題と見なしている投資家の意識と関心の高まりによっても説明できます。投資家イニシアチブの一つであるFAIRRによると、アニマルウェルフェアは世界の主要な動物性タンパク質の生産者にとって高いリスク要因と見なされています。OECD多国籍企業行動指針においてアニマルウェルフェアを省略することは、地域や業界全体でのアニマルウェルフェアの理解に重大な断片化を引き起こし、多国籍企業がアニマルウェルフェアに対する責任を果たすことをより困難にしています。

したがって、アニマルウェルフェアを同指針に盛り込むことは、相互依存する動物、地球、および人間の福祉の「ワン・ウェルフェア」の原則を反映して、世界中のアニマルウェルフェア、環境、そして人間に素晴らしい影響を与える可能性があります。また、他の企業があとに続くことを奨励しながら、すでに進歩的なポリシーを採用している企業をサポートすることもできますし、市民の期待にも応えることができます。

今、日本の畜産動物のアニマルウェルフェアは明らかに世界から遅れを取っており、上述のBBFAWのベンチマークでは国内の主要企業が全社最低ランクに格付けされ続けています。一方、タイの企業など、中にはランクを年々上げている企業もあり、そのような企業は他の持続可能性に係る企業評価でも高評価を得ています。日本企業が遅れを取り続けることは、国際社会の一員として、何一つ良いことはありません。
国内の消費者の81%は、「日本の企業にも畜産動物の飼育環境の改善に取り組んでほしいと思う」という問いに対して肯定しています。飼料生産まで含む畜産物の調達は商流が長く、トレーサビディの確保も難しいため、市民の意向や個別の企業努力だけでは変えることが困難であり、統一したOECD多国籍企業行動指針重要です。
畜産動物に限らず、医療分野や科学分野等で利用される実験動物のアニマルウェルフェアも同様に日本では大変遅れを取っており、広い視点で動物の福祉を考慮することも必要です。それを怠れば、その産業自体が世界の潮流から取り残されることになりかねません。

以上のことから、私どもは日本政府がOECD多国籍企業行動指針を中心に行われている現状評価作業と改訂において、アニマルウェルフェアを盛り込むことを支持されるよう期待いたします。
また、アニマルウェルフェアについて、より詳細な話し合いを行う機会やヒアリングの機会をいただければ幸いです。
ご多忙のところ誠に恐縮ですが、この私どもの要望に対するご回答を4月30日までに頂戴したく、お願い申し上げます。

敬具

2021年3月27日

NPO法人動物実験の廃止を求める会
理事長 長谷川裕一

認定NPO法人アニマルライツセンター
代表理事 岡田千尋

 

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