奈良県立医科大学、医学生の解剖実習を廃止
だだし、ラットを使った酵素やRNAの実習は継続

2019年より、JAVAは奈良県立医科大学に対して、医学生のカリキュラムの中で行われる動物の生体解剖実習の廃止を求めてきましたが、2020年、同大学は今後、解剖を目的とした実習については行わないと回答してきました。

異常に多い解剖の種類

奈良県立医科大学(以下、奈良医大)の医学科の受験を希望する高校生の保護者の方などから、「奈良医大では、マウス、ヒヨコ、カメ、カエル、フナなど多くの種類の動物の解剖実習がある。ほとんどの解剖で1人1匹割り当てられる」「地元なのでこの大学の医学部にわが子を入れたい。けれども、子どもは解剖をすることが辛いと言っているし、親としても解剖はさせたくない。医者は命を助ける仕事なのに命を軽視する人間になってしまう」といった相談がJAVAに寄せられました。
医学生のカリキュラムにおいて、動物を犠牲にする実習を行っていることはわかっていましたが、奈良医大が解剖する動物の種類のあまりの多さに驚きました。

情報開示請求で明らかになった実態

JAVAは事実確認のため、同大学に対して2度、動物実験計画書の開示請求を行いました。1度目は「2016年1月1日~2018年12月31日に医学部生がカリキュラムの中で行った動物の生体解剖実習」、2度目は「2019年1月1日~2020年8月31日に医学部生がカリキュラムの中で行った動物の生体解剖実習」の条件で請求し、次の通り、毎年のように多くの解剖実習を実施していることを確認しました。

【2016年1月1日~2020年8月31日の奈良医大医学生のカリキュラムにおける生体解剖実習の実績】
※上記以外に高校大学連携講座で高校生に対して実施するミシシッピアカミミガメの解剖実習もある

※ここでいう「解剖実習」とは、動物の体を切り開き、体内を観察する目的で行う実習をいいます。他の目的での実習は含みません。

また、上記の解剖実習以外に、次の3種の動物を使った実習も医学生のカリキュラムの中で行われていることが判明しました。

  1. 麻酔下で致死させたモルモットから摘出した腸を使って行う薬理学実習「摘出モルモット腸管の収縮に対する各種薬物の影響」
  2. 麻酔したラットの鼠径部を切開し、大腿動脈・静脈を露出させ、挿入したカテーテルから薬剤を投与し、血圧や心拍数を観察したのち致死させる薬理学実習「ラットを用いたin vivoでの循環動態の観察と薬物による修飾」
  3. 麻酔したラットから肝臓・膵臓・腎臓・血液を採取し、断頭して致死させる生化学実習「ラット肝臓から酵素(AST)を部分精製およびラット各種臓器から特異的RNAの分離・検出」

知識を身に付けさせるなら代替法で行うべき

動物の体の仕組みや発生の過程などを学ぶ方法には、生体や死体を用いる以外にも、コンピューターシミュレーション、動画、精巧な3Dの模型など様々あります。そのような代替法を使用すれば、たとえば解剖の過程を何回でも繰り返しでき、また学生一人一人が自分のペースで行うことができるなど、多くのメリットがあります。生き物の解剖を行った学生と代替法で学んだ学生では、その知識に差はない、もしくは、代替法で学んだ学生の方が優秀であったことが数多くの研究で証明され、「Advances in Physiology Education」や「Journal of Biological Education」などに論文が発表されています。*1 米国とカナダにある211の医学校すべてにおいて、生きた動物を用いる実習がなくなりましたが*2、そういった生きた動物を用いないハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学などが世界トップクラスの優れた医学校であるのも頷けます。つまり、動物を犠牲にしないだけでなく、学習効果を考えても、動物を用いた方法から代替法に転換すべきなのは明らかです。

奈良医大は3Rすべてに反してきた

このように解剖実習には代替法があるにもかかわらず、奈良医大は、「解剖および胚の発生段階の観察を行い、動物の各臓器の進化学的な変化と環境への適応の仕組みを理解する」という、わかりきっていることを学ばせる目的として、解剖実習を行ってきました。また、学生1人に1匹割り当てたり、2018年に新たにギンブナとアフリカツメガエルの解剖実習を増やしたりと、数の削減の努力も見られませんでした。さらに動物愛護法に基づき作成された環境省の「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」等において麻酔下で行うのが望ましいとされている頸椎脱臼の殺処分法をマウスに対して無麻酔で実施していました。仮にこの熟練を要する頸椎脱臼を学生にさせていたのであれば、なお問題ですが、このように可能な限り苦痛を軽減することも実践しておらず、3Rすべてに反していたわけです。

解剖実習を含め、同大学で行われる動物実験はすべて「奈良県立医科大学動物実験管理規程」に則って行なわれ、事前に動物実験委員会の審議を経て、学長の承認を受けているわけですが、3Rの努力もみられない実験が審議を通り、承認されていることは、この大学の動物実験委員会が機能していない証拠と言えます。

他の公立大の実態は・・・

奈良医大を含め日本には医学部を有する公立大学が8大学あります。その他の公立大学についても、JAVAは「2019年1月1日~2020年8月31日までに医学生がカリキュラムの中で行った動物の生体解剖実習」という同条件で動物実験計画書の開示請求をしました。その結果からも奈良医大が解剖する動物種がいかに多いかがわかります。

【2019年1月1日~2020年8月31日の公立大学の医学生のカリキュラムにおける生体解剖実習の実績

解剖実習の廃止が判明
だだし、ラットの実習は継続

JAVAは2019年9月、奈良医大の細井裕司学長に対し、次の2点を求める要望書を提出しました。

  • 医学部のカリキュラムにおいて、動物の生体解剖実習を廃止すること。
  • 医学部に限らず、大学全体の動物実験について、3Rを徹底するよう、大学をあげて全力で取り組むこと。

奈良医大は、定めた期限までに廃止の回答をしてきませんでした。ところが、JAVAが同大学に実習の状況の確認を行い続けた結果、2020年、「カリキュラムの見直しに伴い、解剖は実施しないことにした。今後も、実施しない」と回答してきました。ついに奈良医大は医学生のカリキュラムにおける解剖実習を廃止にしたのです。

さらに、2021年4月、解剖実習以外の動物を用いた3種の実習のうち、①「摘出モルモット腸管の収縮に対する各種薬物の影響」と②「ラットを用いたin vivoでの循環動態の観察と薬物による修飾」も廃止したことを確認しました。
しかしながら、③「ラット肝臓から酵素(AST)を部分精製およびラット各種臓器から特異的RNAの分離・検出」は、新型コロナウイルスの影響から、実施時期は未定としながらも、今後も実施される可能性があります。

廃止を歓迎する声を届け、
残る実習の廃止も求めよう

そうとはいえ、まだ他の大学でも解剖実習が行われている中、最も数多く実施していた奈良医大が、すべての解剖実習の廃止を決めたことは、評価すべき英断です。

ぜひ、奈良医大に「医学生の解剖実習の廃止は素晴らしい決断です」と廃止を歓迎する声を届けてください。そして同時に、残る「ラット肝臓から酵素(AST)を部分精製およびラット各種臓器から特異的RNAの分離・検出」の廃止も求めてください。

これを機に医学部における動物を犠牲にする実習廃止の動きを進めていきましょう!

<奈良県立医科大学>
学長  細井裕司殿
〒634-8521 奈良県橿原市四条町840番地
電話番号:0744-22-3051(代表) FAX番号:0744-25-7657

*1 The Humane Society of the United States(Comparative Studies of Dissection and Other Animal Uses)
*2 Physicians Committee for Responsible Medicine(All U.S. and Canadian Medical Schools Are Free of Live Animal Use)

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