仏科学者団体CEOによる産業界における動物実験と代替法に関する論文

2013年10月2日

Dr. André Menache
Antidote Europe CEO

アンドレ・メナシュ博士

Dr. André Menacheは、ローマで行われた第7回国際動物実験代替法会議(WC7)にJAVAのスタッフが出席した際、知り合った獣医師で、Antidote Europeという科学的理由から動物実験に反対をしているフランスの団体のCEO(最高経営責任者)を務めています。この記事では、EUの化粧品産業ではいかにして動物実験をなくしていったか、製薬産業、化学産業についてもどのようにして動物実験を廃止していくかについて述べています。

産業界の3つの産業における動物利用と代替法の傾向

化学産業は、化粧品産業や製薬産業から動物実験の代替法について多くを学ぶ必要がある。動物の利用とその代替法への転換の動きは、化粧品産業、製薬産業、化学産業でそれぞれ異なっている。その方向を決めるいくつかの要因をこの記事で簡単に論じたい。動物実験の代替法において、総体的に見ると化粧品産業と製薬産業は化学産業よりまさっている。

■化粧品産業(Cosmetic Industry)

ここでの主な要因は世論、つまり動物実験に反対する多くの団体が行うキャンペーンの成果である。この手のキャンペーンが最初に行われたのは1980年、ニューヨークタイムズ紙の1ページをフルに使った広告であった。見出しはこうだ。「レブロン社よ、あなたがたは、美しさのためにいったいどれほどのウサギたちを盲目にしたのか」
進歩はゆるやかではあるが、化粧品産業自体が大規模な研究資金を投じたことで、少しずつ代替法も使われるようになってきた。ひとつの例として、光毒性試験、腐食性試験、皮膚や眼の刺激性試験などは人工皮膚モデルや人工角膜モデルを使用するin vitro試験法が用いられている。

米国のアラガン社が独占販売する化粧品用のボツリヌストキシンA(ボトックス)がin vitro試験法でその安定性や効能を証明したところ、2011年6月、ついにFDA(米国食品医薬品局)がそれを認可した。もし世界中の規制当局が、アラガン社がボツリヌストキシンAの分析に行った代替法を認めていけば、今後3年で95%以上動物の犠牲を減らせることになる。また、アラガン社がin vitro試験法を確立するのに10年という月日がかかったが、その同じ10年間をHSUS(全米人道協会)とFRAME(医学における動物実験代替法のための基金)が動物を使ったボツリヌス毒性試験に反対するキャンペーンを行っていた、という偶然も興味深い。

この例のように、化粧品の原料試験に関して言えば、消費者からの圧力と革新的な技術とが相まって、代替法の発展、法案化、実施という流れを作るということがわかる。

■製薬産業 (Pharmaceutical Industry)

ヒトゲノム塩基配列を新薬の発見と開発を目的として活用する方法は、動物モデルを使用するより前進的で重要な代替法として認められるべきである。規制当局が動物実験のデータを要求してくるのは事実だが、それでもFDAやEMA(欧州医薬品庁)は製薬会社がヒトゲノムのデータを提出することを強く奨励している。この傾向が主導権を握ったのは、2007年にNRC(米国学術研究会議)が発表した 「21世紀の毒性テスト:将来のビジョンと計画」の中で、ヒトモデルのデータが脚光を浴びたということでも明らかだ。

個別化医療(患者ひとりひとりに合った医療)が発展すれば、製薬会社と患者の相互が利益を得られることになるかも知れない。個人のDNAに対しオーダーメイドの薬を調合するのだから副作用はほとんどない。消費者の信頼を勝ち取ることができるのだ。そしてPMC(個別化医療連合)によると、2006年にはたった13種だった治療が2011年には72種に増えたということだ。

しかし挑戦は始まったばかりである。個別化医療固有の複雑さは「The Scientist」に掲載された「ヒトゲノムとは何か?」という記事で指摘されている。この記事が思い出させてくれるのは、ヒトゲノムは単なる静的存在物ではなく、むしろエピジェネティクス(後成遺伝学)や遺伝子変異によって形成されている要素ということだ。つまりリアルタイムの個別化医療を一般治療の基準にするという新コンセプトなのである。個人の腫瘍生検から得たゲノムデータや免疫システムの生物指標の研究に基づいていれば、化学療法は個人にあった医療を提供でき、腫瘍学の将来が約束されたことになる。これらの発展は、動物を使った試験に頼るよりもリアルタイムでヒト自身のデータを使用するほうが良い、という「移行期間」に直面していることを示している。

■化学産業 (Chemical Industry)

製薬産業や化粧品産業の動きが非常にわかりやすい一方で、化学産業は「異常値」を指していると言っていいだろう。例えば消費者は、化粧品と動物実験という関係をクリアに理解しているが、化学という分野にそれほどの社会的関心が集まっているとはいえない。最近になって家庭生活用品における動物実験への意識も高まってきたと思った矢先、今度はEUが定めたREACH(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)による化学物質に対するテストで多くの動物が犠牲になっている。

しかも、消費者の健康保護を訴える団体が環境ホルモン(特にフタル塩酸とビスフェノールA)を含む化学物質を警戒しているため、ほかの消費者も環境ホルモンの安全性を確認するよう圧力をかけてくるようになった。仮に、産業界が環境ホルモンをできるかぎり撤去したり置き換えたりするとしても、予備登録されている化学物質の数が約143,000もあることを考えると、REACHプログラムのもとで実施される実験の数に、実質的影響はほとんど与えられないものと思われる(ただし登録される最終的な数は実際これよりも少なくなるとされている)。

もし世間が化学産業における動物実験を終わらせてほしいと願っているならば、他の選択肢を探すことが必要になる。これに関して把握しているだけで少なくともふたつの見解が出てきた。
まず初めに、化粧品産業界で幅広く使用している動物実験されていない化学物質の90%は、化学産業が実際ほかの目的で使っている。化粧品に使われた化学物質を試験した代替法はもっと幅広く利用されてもおかしくないということだ。また別の言い方をすれば、化粧品産業の駆動力は化学産業の駆動力にもなりうるのだ。
ふたつ目は段階的試験戦略など動物実験を取り除く方法が示されているREACH規制の「付属文書XI」の活用である。「付属文書XI」を利用しても、評価を必要とする化学物質は膨大な数でその作業は気の遠くなる仕事であるが、今では高性能な自動化されたコンピュータ分析システムなどが使える時代なのだ。

化学産業、化粧品産業、製薬産業の3つの産業が走るレースを最後まで見届けるのが楽しみである。

ATLA 40 p20-21,2012

http://www.atla.org.uk/trends-in-animal-use-and

翻訳:JAVA翻訳チーム

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