日本動物実験代替法学会第33回大会報告

2020年11月12日(木)・13日(金)

沖縄科学技術大学院大学で開催予定だった第33回大会は、新型コロナウイルスの影響により、例年3日間開催されるところ2日間に縮小した形でオンラインでの開催となりました。
大会テーマは「COVID-19を超えて3Rsの未来へ」。開催にあたって、大会長であり、学会長でもある東京大学大学院工学系研究科の酒井康行氏は「中長期的に見れば、動物福祉を遵守する社会的要請と、影響発現機序に基づいたヒトでの影響評価を求めるという科学的な要請の両立 -本学会から見ればまさに3Rs原則の施行-は、揺り戻すことのできない人類の発展方向です。新型コロナ禍に対して、研究に加え社会との接点を重視する動物実験代替法学会がすべきことは益々重要になると考えており、本大会がその流れの一助になればと考えております」と述べています。

新型コロナウイルス感染症に直結したシンポジウム

3つ行われたシンポジウムの中でも『抗ウイルス薬・ワクチン開発の最前線 -動物実験代替法はCOVID-19にどのように立ち向かうのか?-』は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関係した内容で興味深いものでした。

国立感染症研究所 品質保証・管理部の石井孝司氏は、『ワクチンの品質管理における動物試験:3Rの応用』の発表の中で、「ワクチンなどの生物学的製剤の品質管理のために、これまで多くの動物を用いた試験が行われてきた。しかし、動物試験はなるべく減らさなくてはならない。ワクチン製造とロットリリース(ロットごとに受ける国家検定制度)における動物試験の代替法への移行、規制要件の国際的な整合化の推進などは、ワクチンの品質管理の分野において急務である」と述べました。
この分野でもさまざまな代替法への転換の努力が進められていて、最も重要なプロジェクトの一つが「Vac2Vac(ワクチンのバッチ*間比較による品質恒常性の維持)」であるとのこと。これは歴史的あるいは臨床的にすでに安全で有効であると証明されているバッチとの恒常性を、動物を用いない試験により保証することを目的としています。ワクチンメーカー、学術機関、国の試験検査機関、規制当局などすべての関係者が関与して取り組んでいるそうです。
さらに石井氏は、「ワクチンの品質管理において動物試験を減らすことは動物愛護の観点のみならず、ワクチンの市場への供給までにかかる時間を短縮し、生産量を増加させ、生産にかかる費用を削減することを可能にすると考えられる」とその重要性を述べました。また、「3Rの中でReduction(動物使用数の削減)とRefinement(動物の苦痛の軽減)は、試験の品質を向上し、動物愛護を進める中間的な目標であり、動物試験の問題点を完全に解決できるものではない。究極の目的となるのはReplacement(動物を使用しない方法への置き換え)である」とJAVAと同じ方向を目指していると感じるコメントもありました。

  1. バッチ:1つの生産サイクルで一度に生産される単位

研究において一切動物実験は行っていないという国立感染症研究所 ウイルス第二部の渡士幸一氏は、迅速なCOVID-19の治療薬候補の提案を目的とした研究について発表しました。「新薬は効果が強い薬や画期的な新薬ができるといった良い点がある一方、時間やお金がかかるといった悪い点もある」と説明。この研究は培養細胞でのウイルス感染実験に加え、in silico(コンピューター内の)ドッキング解析、in vitro(試験管内の)での生化学的解析や数理モデル解析を活用します。つまり動物を使わない方法を用いて候補化合物の同定やその臨床で期待される薬効を評価し、承認薬から新型コロナウイルス増殖阻害薬を見出すことを目的にしています。比較的短期で治療薬候補を提案でき、着目した抗HIV薬ネルフィナビル(NFV)はCOVID-19患者に対する臨床試験が行われているとのこと。

『新薬開発における動物実験と3R』と題した発表を行ったのは、日本実験動物医学専門医でもある沖縄科学技術大学院大学の鈴木真氏。「新薬や新しい技術が世に送り出される過程において動物実験はなくてはならない存在」としながらも、動物実験を実施するには時間を要するため、新薬の探索研究の過程では、in vitroやin silicoといったReplacementの方法が用いられる実状を説明。また、MRIなどの医療用機器の発展により、動物を殺さずに経時的な体内変化の観察が可能になったため、動物の使用数が削減されたというReductionの現状も話しました。そして、「ReplacementとReductionは、新薬や新技術の開発競争において時間短縮の観点からも重要」と述べました。

医学分野の代替法のさらなる発展を

今大会では、「呼吸器感作性」という言葉がよく聞かれました。これもCOVID-19が関係していると思われますが、呼吸器感作性を評価できる試験法は、現時点では動物実験も代替法もないそうです。
人類の感染症との戦いの歴史は、ペスト、スペイン風邪、SARSなどこれまでに何度も繰り返されてきたわけで、COVID-19のあとにも新たな感染症が出てくることでしょう。そうなれば、またワクチンや治療薬の開発も行われ、そのたびに多くの動物が犠牲になるわけです。迅速な医薬品開発のためにも動物のためにも、医学分野での代替法をより発展させていかなくてはなりません。ますます日本動物実験代替法学会への期待が高まります。

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