化粧品でも動物が犠牲に

ウサギやマウスが化粧品の実験台に

シャンプーが目に入ったり、口紅の成分が口から体内に入ったり、クリームが肌からしみこんだり、ファンデーションを塗った肌が太陽光線を浴びたりしたときに、その化粧品の成分が、私たち人間の体にどんな影響を及ぼすのか。これらを調べるために、ウサギやモルモット、マウス、ラットといった動物たちを実験台にして、化粧品の成分である化学物質の毒性試験が行われています。
動物たちは、痛くても苦しくてもそこから逃げることはできません。実験が終わっても、健康な体に戻ることなく、すべて殺されて、廃棄処分にされます。

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©PETA

眼刺激性試験(試験動物:ウサギ)

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©CFI

1944年、米国のFDAの毒性学者だったJohn H. Draizeによって開発された毒性試験方法。「ドレイズテスト(Draize法)」と呼ばれています。白色ウサギの片方の目に試験物質を強制的に点眼し、角膜の変性、虹彩の損傷、結膜の炎症などについて調べます。実験されるウサギは目を手足でこすらないようにするために、頭だけが出る拘束器に入れられ、まぶたをクリップなどで固定されたまま、3 ~ 4日間にわたって経過観察されます。麻酔がなされないときは、あまりの痛みから大暴れし、首の骨を折って死んでしまうこともあるといわれています。
その試験結果は研究室によってバラつきが多く、研究者内部からも信頼性がないといわれてきました。

米国のMRMC(※1)は「ヒトとウサギでは、まぶたや角膜の構造、涙の量が異なるため、ドレイズテストは、ヒトへの毒性を予測するのに信用できないものとなっている。実際、14種類の家庭用品について、眼の炎症に関するウサギのデータをヒトのデータと比較したところ、18倍から250倍もの違いがあった」と報告しています(※2)。「ウサギの眼とヒトの眼では解剖学的および生理学的に異なっている点や実際のヒトの暴露条件より過酷である点を考慮すれば、過大評価であると考えるべき」(※3)、「動物福祉の問題を別にしても、理想的なモデルとは言い難い」(※4)などの批判もあります。

  1. ※1科学的理由から動物実験に反対する科学者と医師によって構成されている団体
  2. ※2Medical Research Modernization Committee“ A Critical Look at Animal Experimentation” 7, (2006)
  3. ※3河内猛「医薬品の局所刺激性試験」『日本薬理学雑誌』(130), 2007
  4. ※4David Williams“ Laboratory Animal Ophthalmology-An Overview” 社団法人日本実験動物協会 海外技術情報38

皮膚刺激性試験(試験動物:ウサギ・モルモット)

同じくJohn H. Draizeによって開発された毒性試験。毛を剃った白色ウサギまたは白色モルモットの皮膚に試験物質を塗布し(場合によっては毛を剃ったうえで損傷を与えた皮膚に塗布し)、3日間にわたって刺激・腐食の程度を観察します。化粧品を繰り返して使用する場合の毒性(連続刺激)を測る試験では、1日1回の塗布を繰り返し、2週間にわたってその程度が観察されます。

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©ONE VOICE

急性毒性試験(試験動物:マウス・ラット)

化学物質が体内に取り込まれたときの毒性を測る試験。動物を1グループ5匹以上、4 ~ 5のグループに分けて、それぞれ異なる量の試験物質を、あらかじめ絶食させておいた動物の口から強制的に投与し、2週間にわたって観察します。化学物質による中毒症状の程度やその継続時間、死亡時の状態などについて確認が行われます。
繰り返して摂取した場合の毒性を測る際には、3カ月以上、あるいは12カ月以上にわたって化学物質の投与が繰り返されます。その段階で死亡していても生存していても、すべて解剖して検査が行われます。つまり、すべて殺され、廃棄処分されます。

1927年にJ.W. Trevanによって発明されたLD50という試験方法では、60匹以上もの動物を使い、その半数が死ぬ量を算出するというもので、近年まで国際的なガイドライン(OECD TG401)として用いられてきましたが、一度に大量の動物を犠牲にすることに非難が集まり、2002年12月にこの試験は廃止されました。

光毒性試験(試験動物:モルモット・ウサギ)

化学物質を塗った皮膚が紫外線など太陽光線を浴びたことによって生じる刺激性を測る試験。いくつかある方法のうち最も広く利用されているMorikawa法では、モルモットまたはウサギの背中に試験物質を塗布し、紫外線照射を繰り返すというものです。化粧品の動物実験のなかでは現在最も代替法の開発が進んでいる分野で、すでに国際的なガイドラインにとり入れられていますが、いまだに動物を用いた試験が行われているのも実情です。 このほか、化学物質によって起こされる皮膚のかぶれやアレルギーをみる皮膚感作性試験(モルモット)、遺伝子や染色体への影響をみる変異原性試験(マウス)など、毒性試験のために動物が使用されています。

化粧品の有用性確認のためにも動物実験が

「美白」「アンチエイジング」などを筆頭に、近年市場をにぎわせている機能性化粧品。その有効性を確認するためにも、動物を使った実験が行われています。
シワ予防・シワ改善剤の開発の実験には、ヘアレスマウスが13週間から23週間にわたって紫外線を照射され続けます。育毛剤の開発には、若いマウスやウサギが背中の毛を剃られて、その皮膚に薬剤を連日塗布されたり、男性の脱毛のモデルとしてベニガオザルが前頭部に薬剤を連日塗布され、その皮膚組織を切り取られるといった実験が行われています。また、ニキビ用化粧品、育毛剤、入浴剤をはじめとする化粧品など製品の有効成分を、皮膚を通して体内に吸収させる実験では、マウスやラット、モルモットなどの動物に、薬剤を塗布したり薬剤の入った容器を密着させて、その後血液や尿、皮膚の薬物の濃度を測定したり、放射性同位体で標識した薬物を動物に投与し、一定時間後に死亡させた後、放射線量から体内の薬物濃度を測る(オートラジオグラフィー)といったことが行われています。

世界の流れ-EUでは禁止に

*画像をクリックすると拡大表示できます(更新日:2018/7/9)

欧米では、1970年代頃から「美しさのために動物を犠牲にしたくない」という消費者による化粧品の動物実験反対運動が盛んで、動物実験はしないと宣言するメーカーをたくさん生みだしてきました。そして、その声は政治をも動かしました。

  • 1993年/  欧州議会が決議 化粧品の動物実験を段階的に禁止
  • 1997年~/オランダ、ドイツ、オーストリア、イギリスなどのEU加盟国が、自国の法律にて化粧品の動物実験を禁止や廃止へ
  • 2004年/  EU域内での、化粧品の完成品の動物実験禁止
  • 2009年/  EU域内での、化粧品原料の動物実験禁止
    EU域外で動物実験がされた化粧品の完成品と原料の、EU域内での、販売(取引)禁止(一部例外あり)
  • 2013年3月11日/化粧品(完成品、原料、原料の組み合わせ)の動物実験が例外なく完全禁止となる

そして、EUに続くようにノルウェーや、クロアチア、イスラエル、インド、ブラジルのサンパウロ州なども禁止になりました。
さらに、米国、ブラジル、オーストラリアといった国々では、禁止にしようとする法案が出され、動物実験のなくなる日がそう遠くないと想像できます。

このように国際社会では化粧品の動物実験は廃止の方向に向かい始めています。ところが、日本ではいまだに大手をはじめとした多くの化粧品メーカーが動物実験を続け、消費者はそれを知らずに購入しているのが現状です。EUのように、多くの消費者が反対の声をあげれば、日本でも動物実験はなくせるのです。

動物実験に代わる代替法

市民の動物実験に反対する気運が高まり、動物実験に代わる試験方法が開発されるようになりました。培養細胞や人工皮膚モデルを使って化学物質の毒性を調べたり、コンピュータシミュレーションから毒性を推定するなど、生きた動物を使用しない試験方法です。

倫理面からだけではなく、科学的にも経済的にも多くの利点があります。

  • 経費と時間を大幅に削減できる
  • 動物のように体質や性格など個体差がなく、様々な環境設定ができる
  • ヒトと動物の間には種の違いという障壁があるが、ヒトの細胞を使って、直接人間の安全性を調べることもできる
  • 試験物質や有毒廃棄物が少量ですみ、環境保護や実験者の安全性向上につながる

代替法は化粧品だけでなく、医薬品や他の化学薬品にも応用が可能です。欧米諸国では代替法開発に向けた取り組みが国レベルで行われていますが、日本政府は大幅に立ち遅れています。
私たち市民が今以上に動物実験の問題に目を向け、代替法への関心と期待を高めていくことも大切です。

 ▶動物を使わない実験方法『代替法(だいたいほう)』の詳細はこちら

多くの人が望まなければ動物実験はなくなる

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動物実験を続けているメーカーは、「お客様の安全を確保するため」「より有用な製品を提供するため」「法律で要求されているから」「代替法が確立していないから」ともっともらしい理由をあげますが、すでに安全性が確認され世界中で長く使用されてきた原料は膨大な数にのぼり、それらを使用する限り、新たに動物実験をする必要はなく、法律で義務づけられているわけでもないのです。

しかし、なぜ動物実験を続けるのでしょうか?それは、まだ化粧品として使われたことのない新たな成分を開発すれば、メーカーは莫大な利益を得ることができるからです。新しい成分を使う場合に限っては、国も動物実験を要求しているのですが、それらのメーカーが動物実験をやめないのは、「法律で要求されているから」ではなく、「動物のいのちより会社の利益を優先させているから」に他なりません。

メーカーは、“美しさのための動物実験”に対する倫理的な批判と国際的な動物実験反対の流れを真剣に受け止め、たとえ代替法が確立されるまでのあいだ新しい成分の開発をストップさせることになったとしても、ただちに動物実験をやめるべきなのです。

メーカーにこの決断をさせるためには、私たち消費者が動物実験を望んでいないということを積極的にメーカーに示していくしかありません。「メーカーに動物実験しているかどうかを確認し、しているとわかったら〝やめるまで買いません〟と伝える」「動物実験していないメーカーの化粧品を買う」「そのメーカーを応援する」というように、一人ひとりがショッピングを通じてできることはたくさんあります。そして、化粧品開発のために動物実験が行われていることを、周りの人たちに知らせていくことです。そうすればメーカーも、動物実験をしていることによってイメージが悪くなり、消費者が離れていくことになれば、会社の利益にならない動物実験をすぐにでもやめざるを得なくなるからです。
化粧品の動物実験をなくせるかどうかは、私たち消費者一人ひとりの手にゆだねられているのです。

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